法政大学の田中優子総長は、安倍政権下の教育政策について「評価できる政策と明らかに失敗した政策、深刻な問題につながった事象の3つがあった」と述べた。写真は2019年(撮影:吉濱篤志)
7年8カ月続いた安倍政権が注力したのが教育政策だった。
首相直属の教育再生実行会議を立ち上げ、大学入試センターテストを大学入学共通テストへ転換させたほか、幼児教育や高等教育の無償化などを積極的に推し進めた。
安倍政権の7年8カ月を振り返る連続インタビューの5回目は、コメンテーターとしても活躍する田中優子法政大学総長。安倍政権の教育政策を振り返ってもらうとともに、新政権に望むことを聞いた(インタビューは9月11日に実施した)。

大学入試改革は失敗した

――安倍政権は発足当初から教育改革にはかなり積極的に推し進めてきた印象があります。安倍政権の教育政策についてどう評価していますか。

「評価できる政策」と「明らかに失敗した政策」、そして「深刻な問題につながった事象」の3つに分けて話していきたい。

まず評価できる政策として、幼児教育と高等教育の無償化は、(これまで)なかなか実現できなかったが踏み込んでくれた。財源の問題はあったが、消費税の増税分を充て、子ども・子育て支援新制度も待機児童の半減につながった。

高等教育の無償化は低所得世帯に限った支援(修学支援新制度)になっている。本当の意味での無償化ではないが、大学だけではなく短大や高等専門学校も対象にし、コロナ禍でも「学びの継続のための学生支援緊急給付金」とあわせて有効に機能した。

規模も大きく、これまで文部科学省が実施していた返済不要の給付型奨学金の予算規模は約140億円程度だったが、修学支援新制度の予算は2020年度で4880億円に達する。教育機関を支援するのではなく、教育を受ける若者に直接支援する形で多くの額を注ぎ込んだのは非常に重要なことだと思う。

支援対象者は最大で75万人。低所得世帯の若者たちの大学進学率は専門学校を含めて4割ほどだったが、この制度で8割程度に達するといわれ、格差の固定化を防ぐことになる。これは止めてはならない政策だ。

ただ問題点もある。政府は「無償化」とうたっているが誤解を招く。私立大学の授業料の減免の上限額は約70万円で、それでは授業料すべてを賄えない。授業料が低い学部・学科でもプラス50万円、医学部などだとプラス450万円は必要になる。国立大学は全額無償となるが、大学生のうち8割弱を占める私立大学在籍の学生たちは、低所得層でも無償化にはなっていない。今まで授業料の減免制度の対象になっていた中間層へ補助ができなくなったという問題もある。

全国の小・中・高校に生徒1人当たり1台の端末を支給する GIGAスクール構想も評価できる。もっと早く実施していれば、この半年、1年の学校現場は違ったものになったと思うが、やらないよりはましで、できるだけ早くやったほうがいい。すべての子どもたちがタブレットを持つ時代は必要。このような政策は重要だし、やるべきことをやってくれたと思う。

――失敗した政策というのは何ですか?