日本福祉大の二木立名誉教授は「安倍政権はステルス作戦で医療費抑制の実をとった」と語る(撮影:尾形文繁)
新型コロナウイルス対策への課題が山積されたまま、安倍晋三・前首相は退陣を表明した。コロナ禍によって医療への関心は高まっているが、安倍政権下で日本の医療界はどのように変わったのか。
安倍政権の7年8カ月を振り返る連続インタビューの4回目は、医療経済や医療政策が専門の二木立・日本福祉大学名誉教授。安倍政権の医療政策を振り返ってもらうとともに、9月16日に発足した菅政権の課題を聞いた。

ステルス作戦で医療費を抑制

──二木さんは、安倍政権が厳しい医療費抑制政策を復活させたと指摘していますが、あまり一般には知られていませんね。

今回、私自身も調べてみて驚いた。アベノミクスの成果かどうかは別にして、第2次安倍政権で国内総生産(GDP)の成長率は上昇した。だが、国民医療費の伸び率は、直前の民主党政権の時はもちろん、その前の3代の自民党政権のときよりも低い。医療費を抑制したといわれる小泉純一郎政権の時代でさえ、医療費の対GDP比は微増していた。

経済の伸びに合わせて医療費も大きくなるというのが医療経済学の常識だが、第2次安倍政権でその関係が完全に失われているのは、歴史的にも極めて異例なことだ。

安倍政権が診療報酬全体のマイナス改定を断行した2014年度、16年度、18年度の医療費伸び率は改定前より明らかに低下している。このことは、診療報酬の引き下げがストレートに医療費に影響していることを示している。

──小泉政権と安倍政権の違いは何だったのでしょうか。

小泉政権はいわば劇場的な手法で、日本医師会や自民党の厚労族などを「抵抗勢力」に見立てて敵をつくり、医療分野への市場原理の導入や患者負担の大幅増加を推し進めようとした。

それに対して、安倍政権の医療費抑制政策には小泉政権のような派手さはまったくない。ステルス(秘密)作戦のように、4回あった診療報酬改定ですべて下げて医療費抑制の実を取った。

──新型コロナウイルス禍で、医療機関の経営難が広く報道されています。厳しい医療費抑制政策が影響したのでしょうか。

厳しい医療費抑制政策が2013年度以降、7年間も続き、医療機関、特に民間の急性期病院の利益率は急減した。福祉医療機構のデータによると、急性期の民間病院の経常利益率は小泉政権のときに0%までに低下した。民主党政権で3%台まで持ち直したと思ったら、安倍政権の医療政策で再び下がり、2016年には0.6%まで低下した。

これではとてもではないが内部留保を蓄積できない。そこに新型コロナが襲い、収入減と費用増によって多くの病院が経営危機に直面している。

──診療報酬引き下げの中身は大半が薬価の引き下げでした。