きうち・たかひで 1987年から野村総合研究所所属。日本経済の分析、ドイツ、米国で欧米の経済分析を担当。2004年野村証券に転籍、07年経済調査部長兼チーフエコノミスト。12年7月から17年7月まで日本銀行政策委員会審議委員、この間独自の視点で提案を行う。17年7月から現職。(撮影:尾形文繁)

安倍晋三首相の突然の辞任表明を金融市場は比較的冷静に受け止めた。これが安倍政権の経済政策パッケージ、いわゆるアベノミクスへの期待が非常に強い時期であったなら、市場の反応はもっと大きかったはずだ。とりわけ、安倍政権発足当時と比べて格段に落ちてしまったのが、金融緩和の効果に対する期待だろう。

安倍政権はその発足当初、日本銀行の異例の積極金融緩和策を「デフレ克服のための最大の武器」と位置づけた。デフレを国民の生活を脅かす敵と見なし、デフレを退治するため、日本銀行に政策姿勢を変えさせ積極的な対応を促すことで、政治的な求心力を高めていったのである。

しかし、積極緩和策は安倍政権が当初期待した効果を発揮することはなかった。むしろ、大きな副作用、潜在的なリスクを累積させることとなったのである。それは、金融機関の収益環境悪化、金融市場の機能低下、財政規律の緩みの助長、日本銀行の財務悪化を通じた独立性低下のリスクなど多岐にわたる。それらは巨額の政府債務と並んで、政権の大きな「負の遺産」となったのではないか。