「最低賃金引き上げは功績、あとは内実なし」 【労働政策】NPO法人POSSE代表・今野晴貴氏に聞く

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年間3000件を超える労働・生活相談に関わる今野晴貴氏。安倍政権の労働政策について、「パフォーマンスは天才的だった」と振り返る(撮影:尾形文繁)

特集「安倍政権の“功と罪”」の他の記事を読む

限定正社員や高度プロフェッショナル制度、残業時間の上限規制、そして同一労働同一賃金…。安倍政権では矢継ぎ早にさまざまな労働政策が提起された。
しかし、勇ましいパフォーマンスとは裏腹に、こうした施策にどれだけの実効性があったかについては疑問符が残る。
安倍晋三政権の7年8カ月を有識者とともに振り返るインタビューシリーズ。3人目は、若者の労働・貧困問題に取り組むNPO法人POSSE代表理事の今野晴貴氏に聞いた。

規制緩和の論理は洗練された

──安倍政権は多様なキャッチフレーズとともに、矢継ぎ早に労働政策を打ち出しました。7年8カ月の総合評価はいかがですか。

間違いなく評価できるのは最低賃金が上がったことだ。もともと世界的にみても異常に低い水準だったのは確かだが、それでも従来の政権がなかなか改善できなかった低い水準を改善したことは評価したい。

ただ、その他に関しては多くのテーマを打ち出した割に、あまり内実はなかったと思う。極端な規制緩和に振れることはなかったが、規制強化に踏み切ったかといえばそれもない。例えば、非正規雇用についても裁判例によって規制がかけられてきたのが実情であり、安倍政権が(行政や立法の面で)何か進めたというわけではない。

──2012年の第2次政権発足当初、産業競争力会議や規制改革推進会議で雇用規制を岩盤扱いするなど、労働政策の面では規制緩和一辺倒のように見えました。

(2007年の)第1次安倍政権時に提唱された労働市場改革「労働ビッグバン」路線はそのままに、正社員の既得権を奪うような規制緩和を行うかに思えたが、そうではなかった。契約関係に基づく新たなカテゴリーとして「限定正社員」を作るというものだった。規制緩和路線が変わったわけではないが、その論理は洗練されたと言っていい。

この流れで、コロナ禍で進んだテレワークとの関連などで時間管理になじまない「ジョブ型正社員」のあり方などについて議論が進んでいる。「残業代ゼロ法案」と批判された一定の年収以上の専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」なども含め、安倍政権では労働時間規制の外れた労働者の枠組みを一貫して作ろうとしてきた。

──ただ、2015年の一億総活躍国民会議の発足前後から風向きが変わり始めます。提唱された「働き方改革」では、残業時間の上限規制や同一労働同一賃金のような、一見したところ労働者寄りの政策が打ち出されます。

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