佐藤 優(さとう・まさる)作家・元外務省主任分析官。1960年生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。2009年、背任と偽計業務妨害の有罪確定で、外務事務官失職。『自壊する帝国』(新潮社)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。(撮影:大澤 誠)

イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)との国交正常化は、トランプ政権にとって大きな外交的成果だ。これは今後の国際情勢に大きな影響を与える。トランプ大統領に対抗する米民主党のバイデン候補は同時期に、副大統領候補に黒人のハリス上院議員を指名したが、このニュースはかすんでしまった。

イスラエルと国交を持つアラブ諸国は、UAEのほかにエジプト(国交樹立は1979年)とヨルダン(同94年)のみだ。イスラエルはアラブ諸国との外交関係拡大をこれまで追求してきたが、果たせないままだった。

一方、UAEが国交正常化に乗り出したのには、2つの原因がある。1つはペルシア湾を挟んで対峙するイランが、地域の大国としての自己主張と軍事的挑発活動を強めていることだ。そこでUAEはイランからの脅威に対抗するため、イスラエルと修交するというカードを切った。もう1つは、イスラエルとの連携強化でUAEの経済発展を高めたいという思惑である。イスラエルはハイテクを中心に経済力を高めている。

さらにUAEは、イスラエルを承認しながらも「アラブの大義を守った」と主張できる。それは、イスラエルによるヨルダン川西岸地区の一部併合を停止させたためだ。かつてのアラブ諸国にとってイスラエルという存在は許せるものではなく、パレスチナ問題は外交上の最重要課題だった。

それが、イランの脅威増大と、パレスチナ側の強硬姿勢が続いている間に、パレスチナ問題が絶対的に重要とはいえなくなった。いわば、「イスラエルはこの地にあってはならない国家」という認識が変わりつつあったのだ。