大統領の政策を4軸で解説、歴史の中の「今」を再認識
評者/帝京大学教授 渡邊啓貴

『現代アメリカ政治外交史 「アメリカの世紀」から「アメリカ第一主義」まで』青野利彦、倉科一希、宮田伊知郎 編著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] あおの・としひこ 一橋大学大学院法学研究科教授
くらしな・いつき 広島市立大学国際学部准教授
みやた・いちろう 埼玉大学人文社会科学研究科准教授

本書は第2次世界大戦後の米国の政治外交史だが、その特徴は各大統領の政策を、①大統領制のあり方、②人種問題、③ジェンダー、④対外政策に分け、各章で包括的に論じている点にある。通して読まなくても、興味のある時代の政策がまとめて理解できるようになっている。

序章では基礎となる大戦前の政治外交史が、4軸に沿って解説されている。①もともと連邦議会と州政府の権限が強かった米国政治は19世紀末に革新派の大統領が現れたころから変化し、1930年代に「強い大統領制」へと変わったこと、②人種排外主義の対象はアフリカ系だけでなく、同じ白人でも東欧諸国、アイルランド、イタリアの出身者、さらにアジア系など、幾重にも差別の構造が潜在化していること、③敬虔で貞淑、家庭的な淑女を理想とする米国の女性像の崩壊から女権運動や同性愛者の社会的承認への進展、④外交における孤立主義から国際主義と理想主義への変容、である。これらが現代米国政治外交の通奏低音となっている。

そうした基本認識を背景に、各政権の政策を説明しつつ、戦後米国史のダイナミズムを丁寧に解説する。

戦後「自由の盟主」として大量消費の「豊かな社会」と平等とデモクラシーを体現したケネディ・ジョンソン時代の「ニュー・フロンティア」「偉大な社会」の企図は、70年代にヴェトナム戦争と石油危機という軍事的失敗、経済的打撃によって大きく揺らいだ。

そして「偉大なアメリカ」というスローガンを掲げたレーガンの時代にソ連が崩壊して冷戦が終息、その後の世界は米国的秩序観に支えられたグローバリゼーションの時代に突入していく。

ところが、冷戦後の世界は必ずしも米国一極の時代にはならず、21世紀に入ると米国はその国際的信頼の喪失と国内の分断に対応しなければならなかった。トランプの「米国第一主義」は偉大な米国の復活への渇望でもある。

大きな流れを把握できると同時に、米国について知識のある読者にも多くの「気付き」がもたらされるだろう。例えば「リベラル」という表現。原義は欧州市民革命の理念である王侯貴族の特権の廃止だが、米国では社会的弱者の救済という意味で使われ、保守の側からすると、共産主義を意味する言葉になる。こうした米国的な言葉の用法についての言及も所々に見られる。

大統領選挙を11月に控えて、歴史の流れの中で今日の米国を改めて見つめ直すには格好の1冊だ。