やまもと・そうすけ 1976年生まれ。早稲田大学卒業。ドキュメンタリー映画監督の佐藤真氏に師事。2006年、映画『もんしぇん』の監督で商業デビュー、同作は第6回天草映画祭「風の賞」受賞。フリーランスの映像作家として「プロフェッショナル 仕事の流儀」「情熱大陸」などで活躍。
年齢制限による引退が迫る36歳のB級ボクサー米澤重隆。引退回避のため、9カ月以内にチャンピオンとなることを目指す。誰が見ても無謀な挑戦だったが、ボクサーの情熱が周囲を巻き込み、やがて奇跡が起き始める。
一八〇秒の熱量
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──2013年に放送が終了した番組を、今なぜ本にしたのですか。

NHKの連続ドキュメンタリーの担当ディレクターとして9カ月間、米澤さんに密着した。番組では寡黙で努力家のボクサーとして描いたが、実際の彼は愚痴の多い普通の36歳男性。テレビではわかりやすさを求められるため、カットした内容が多い。「僕の見た世界はこんなものじゃない」という忸怩(じくじ)たる思いを引きずりながら、放送終了の1年後に書き始めた。書き終えたらスッキリして、そのままにしていたら、番組を見た映画プロデューサーから彼の話を映画にしたいと相談された。だったら読んでもらおうと原稿を渡したら、面白いから本にしようということになった。

──過去に数々の有名人を映像化していますが、米澤氏の魅力は?

これまでの取材対象は仰ぎ見るスターばかり。自分と重ね合わせることなどできない存在。対するB級ボクサーの米澤さんは自分と同じ場所にいると思っていた。ところが、彼はコールセンターで連日の夜勤をこなし、深刻な腰痛を抱えながら挑戦している。知れば知るほどたいへんな状況で、取材するうちに僕も入れ込み、彼も心を開いてくれた。

最初は放送3回分で取材を終えるつもりだった。ボクシングに興味はないし、次にやりたい企画もあった。でも試合をするごとに彼は強くなり、奇跡の歯車が回り始めたというか。結局、9カ月で5試合やることになり、連続ドキュメンタリーとして11回放送した。チャンピオンになれる可能性なんて考えづらいのに、ジムの会長は「そんなのわからない」と言いながら金のかかる遠征試合を何度も組んでいた。僕も周りも挑戦に狂わされていくような感じだった。

──取材を通し強くなったのでは。