コロナ禍で増えつつある事業承継。売り手にとっては事業の存続、買い手にとっては既存リソースの活用といったメリットがある。だが、承継がスムーズに進まず、経営混乱に陥るなどのリスクと隣り合わせでもある。

事業承継を円滑に進めるにはどうすればいいのか。ここでは、親族内承継や第三者承継を実践した5人の経営者の足跡をたどろう。

親族内承継

山崎一史社長は「家業を再建すること以上のやりがいはない」と語る

家業の業態転換を敢行

「父から事業を継ぐときは、かなりの覚悟が必要だった」。大阪市の家庭用ミシンメーカー、アックスヤマザキの3代目、山崎一史社長(42)はそう振り返る。

1946年に山崎社長の祖父が創業した同社。輸出で急成長したが、円高が逆風となり経営状況が悪化。2代目の父が、輸出モデルから輸入モデルへ切り替えた。当時、国内のミシンは「一家に1台」といわれ、市場が急成長した時代。そこで台湾の工場で生産したミシンを輸入し、米国メーカーのOEM(相手先ブランドによる生産)で販売し、経営を立て直した。しかし2000年代に入り、そのOEM先が解散し、再び業績不振に陥った。

3代目の山崎社長は大学卒業後、機械工具商社に勤めていた05年に父から「事業を継ぐ気はあるか」と言われた。迷いはあったが、「父が弱音を吐いた姿を初めて見て、自分がこの状況を変えなければいけないと思った」(山崎社長)。祖父の代から家計を支えてくれたミシンに恩返ししたい気持ちもあり、入社を決意した。

国内の家庭用ミシン市場は1999年の年間約100万台をピークに右肩下がり。徐々に「縮小する市場でのパイの奪い合いに限界を感じ始めた」(山崎社長)。しかし、どうすれば業績が上向くかわからない。ビジネススクールでMBAを取得するなど、「とにかく仕事に使えそうなことを学んだ」。

当時考えを巡らせたのが、ミシンを使わない人がなぜ増えたのかということだ。周囲の女性に聞いたり、アンケートを行ったりして気づいたのは、女性の多くがミシンに興味は抱いても、「難しい」「面倒くさい」ことから利用を躊躇していたことだ。「突き詰めると、小学校の家庭科の授業で上手に使えず、苦手意識を持った人が多くいた」(山崎社長)という。

根底の苦手意識を解消するには、子供時代にミシンを楽しんで使ってもらうのがいちばん。そのため子供でも簡単かつ安全に使えるミシンを作ろう、と決めた。