写真はイメージです(ZARost/PIXTA)

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる社会機能マヒが続く中、世間ではウイルスに対する恐怖感・嫌悪感が増すばかりだ。

だが、この嫌われ者を「薬」にし、同じく多くの人から嫌われているがん細胞を死滅させる試みが進行中である。その名も「腫瘍溶解性ウイルス」だ。

そもそもヒトの細胞に感染したウイルスは、自らの遺伝情報をヒトの細胞内に送り込み、その増殖システムを乗っ取って新たなウイルスを生み出す。こうしてできた新たなウイルスは、自分が生まれた細胞から飛び出し、隣接する別の細胞の中に侵入。同じようにウイルスを作り出す過程を繰り返していく。一般的にこの過程は、ヒトの免疫機能が働いてウイルスが排除されるまで続く。

腫瘍溶解性ウイルスはこの仕組みを逆手に取る。病原性を抑えたウイルスが体内でがん細胞のみに感染して増殖するよう、遺伝子の一部を人工的に改変するのだ。これをヒトへ投与すれば、がん細胞に感染して爆発的に増殖し、連鎖的にがん細胞を死滅(溶解)させられるというわけだ。

現在、最も開発が進んでいるのが、東京大学医科学研究所の藤堂具紀教授らの研究グループが作り出し、第一三共と共同で開発する「DS-1647」だ。

これは、口の周りに水ぶくれを引き起こす口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルス1型の遺伝子に改変を加えることによって、がん細胞のみで増殖するようにしたもの。かつ、感染したがん細胞がヒトの免疫細胞から異物として発見されやすくなる効果もある。