再び制限強まる黒人の権利、大統領選の帰趨に影響も
評者/ジャーナリスト 中岡 望

『投票権をわれらに 選挙制度をめぐるアメリカの新たな闘い』アリ・バーマン 著/秋元由紀 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile]Ari Berman 1983年生まれ、米ノースウェスタン大学卒業(ジャーナリズム、政治学専攻)。米国政治、選挙権、公民権運動などをカバーするジャーナリスト、コメンテーター。有力紙誌に寄稿。2017年、独立系メディアのすぐれた功績に対して授与されるIzzy Awardを受賞。

タイトルは63年前のキング牧師の演説の一節だが、本書は歴史書ではない。他国に対し民主主義を称揚する米国では、投票権をめぐる争いが今なお続いている。米国において投票権問題は極めて今日的な問題なのである。

奴隷制度廃止後の1870年に成立した憲法修正第15条は「人種、肌の色を理由に投票権を制限してはならない」と規定する。南北戦争後、連邦政府は「南部再建」として、南部に連邦軍を置き、黒人の公民権の保護を図った。選挙権を与えられた黒人は州議会議員選挙に立候補し、ルイジアナ州とサウスカロライナ州では州議会の過半数を占めた。

だが、連邦政府はほどなく政治的妥協から連邦軍を撤収。旧南部連合の指導者が一斉に公職に復帰した(南部復古)。白人は黒人の公職への進出に恐れをなし、「ジム・クロウ法」と呼ばれる規制で黒人を立法と行政から排除した。

黒人の公民権と投票権が回復したのは「1964年公民権法」と「65年投票権法」が成立してからだ。しかし、話はここで終わらない。その後も、黒人の投票権を制限するさまざまな試みが保守派によりなされ、現在に至っている。本書はこの公民権法と投票権法をめぐるリベラル派と保守派の“政治闘争”と“法廷闘争”を詳細に描いている。

投票権法は、南部の7州と4州の一部に対して、選挙区、投票方式の変更には連邦政府の承認を得ることを義務付けている。南部諸州が二度と黒人の投票権を妨げないようにするためであった。

ところが、南部の白人指導者は、こうした規定は連邦政府による「南部再建」の再現だと反発。一方で、民主党の支持基盤拡大に脅威を感じた共和党は、ニクソン大統領の「南部戦略」で始まった南部の保守的な白人層への浸透をさらに進めていく。そして南部の保守的な白人と共和党の共生関係が成立し、「反革命勢力」が出来上がった。

著者は「投票権法成立以来、この勢力は投票権を制限するために何十年越しの運動を繰り広げ、権力構造の最上層にも入り、最近では連邦最高裁の過半数を支配している」と指摘する。その結果、投票権法第5条は最高裁の判例で骨抜きにされ、再び南部だけでなく、他の州でも投票制限法が導入されている。トランプ大統領も黒人の不正投票をやり玉にあげ、投票規制を支持する発言を行っている。

本書は投票権に留(とど)まらず、米国政治の優れた分析の書でもある。分厚くて読み通すのは骨だが、それだけに得るものが多い。