週刊東洋経済 2020年8/8・15合併号
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感染症の蔓延によって人が対面する機会はぐっと減った。一方で、チャットやビデオ会議によるコミュニケーションが増えている。こうした状態は、人間関係に大きな影響を及ぼすのではないか。

京都大学総長 山極寿一(やまぎわ・じゅいち)1952年生まれ。京都大学理学部卒業、同大大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学、理学博士。京大霊長類研究所助手、同大学院理学研究科助教授を経て、同教授。第26代京大総長。(撮影:今井康一)

「生物とは、時間と空間を同時に扱えるものである」。これは、僕の師匠であり霊長類学の創始者である今西錦司さんの教えだ。信頼関係を構築するために重要なのは、この「時間」と「空間」の2つを相手に委ねること。顔を突き合わせ、時間をかけて話をすることで、信頼が形成されていく。

こうしてつくられたネットワークを「人的社会資本」という。社会資本とは本来、国民が生活するうえで必要な福祉と経済を支えるインフラを指す言葉だ。僕はこれに「人が社会生活を送るうえで必要不可欠な人的ネットワーク」という意味を加えて、人的社会資本と呼んでいる。1人では解決できない困ったことが起きたとき、頼ることのできる存在のことだ。

このことを学んだのは、野生のゴリラと一緒に生活したことがきっかけだった。ゴリラは仲間の顔が常に見える、10頭前後の群れで暮らしている。顔を見つめ合い、しぐさや表情からお互いの感情や意図を的確に読み取る。ゴリラには仲間との社会関係以外に頼る社会資本はなく、これは人間にとっても始原的なものであるといえる。人間も本来、10〜15人の集団が最もまとまりのよいサイズで、ゴリラ同様、日常的に顔を合わせることで信頼関係を形成していく。僕自身の経験をいえば、アフリカでゴリラの研究をするため一緒に森へ入った米国人、英国人の研究者の同僚は、後の人生でも研究のアドバイスをもらえる重要な社会資本だ。

ゴリラと人間の違い