週刊東洋経済 2020年8/8・15合併号
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ブラックバイト、過労死、所得の低迷。現代の経済社会が抱える多くの問題は、どうして一向に改善されないのか。19世紀の革命家・マルクスが著した『資本論』は、資本主義が生み出す病理について理解する手助けになる。

思想史家・政治学者 白井 聡(しらい・さとし)1977年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。現在、京都精華大学教員。『永続敗戦論 戦後日本の核心』『属国民主主義論』(共著)『国体論 菊と星条旗』など著書多数。(撮影:田所千代美)

数年前、中国の日系自動車メーカーの工場でストライキが起こった。そのとき読んだ記事は、「困った。これをどう抑えつけるか」という論調で書かれており、びっくりした。中国の労働者が賃上げを求めると日本で何が起こるかということを、読者であり労働者でもある多くの日本人が理解できていない事実を示す例といえる。

どうして日本の労働者の賃金が上がらないのか。世界中の企業がもっと安い労働力を求めて、人件費の安い国に生産拠点を移しているからだ。いわば、労働者は「労働力のダンピング競争」をさせられている状態だ。したがって、今とても安い賃金で働かされている海外の労働者が「こんなのは我慢ならん」と言って、賃上げを強硬に要求し賃金が上がるならば、「ダンピング競争」が緩和されて、日本の労働者にとってもプラスに作用する。

多くの日本人に「自分は賃労働者である」という客観的な認識があれば、「中国の日系自動車メーカーでストをやっているのか。工場のスト、もっとやれやれ」と、応援する論調になるはずだ。「困ったなあ」となるはずがない。そこで「困ったなあ」と考えてしまうのは、いつの間にか経営者目線、資本家目線になってしまっているからだ。

資本主義の構造を理解できていないために、労働者の立場であるにもかかわらず、「エア経営者」「エア資本家」の目線になっている人が日本にはどれほど多いことか。滑稽なことをしていると自覚したほうがいい。