週刊東洋経済 2020年8/8・15合併号
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コロナ禍の今、私たちはどのような知識や教養を身に付けるべきなのか。実は私はその問い自体に疑問を感じている。グローバリズムを牽引してきたのは効率重視の思想である。いちばん役に立つのは何か、という発想はまさしくこの思想に基づくもので、誤りである。

数学者 藤原正彦(ふじわら・まさひこ)1943年生まれ。お茶の水女子大学名誉教授。1978年、『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。『国家の品格』『国家と教養』『本屋を守れ』など著書多数。

はっきり言うと、教養とは役に立たないものだ。役には立たないが、持っていないと駄目だというものだ。役に立つことだけを追いかけてはいけないのである。

小柴昌俊さんがニュートリノの観測でノーベル賞を受賞したとき、「先生の研究はいつぐらいになったら人類の役に立ちますか」と聞かれた。すると小柴さんは、「500年経っても役に立たない」と答えた。

それでもこの研究がすばらしいのは間違いない。小柴さんの研究により、日本の科学技術の水準が高くなり、レベルの底上げも進んだ。その結果、日本からイノベーションが生まれていく。こういう循環が発生したのである。

役に立つものを追い求めるという発想が世界を毒してきた。だから、役に立たないもの、教養のようなものを持たないと、これからの世界は回らないのである。

グローバリズムは新型コロナウイルスで破綻したようなものだ。人、物、金が自由に国境を移動する。それは数学的に見て、関係国すべての利潤が最大化される方式である。数学的に証明されている。

エコノミストや経済学者は、そのことを「数学は絶対的に正しいから、数学的に証明されたのなら、もう問題ない」とそのまま受け入れてしまう。

数学的理論は通用せず