今年の米国大統領選挙でトランプ大統領が再選されるかに世界中が注目している。前回2016年の選挙ではトランプ氏の獲得選挙人数が306、対するヒラリー・クリントン氏は232。大差で勝利したトランプ氏だが、総獲得票数はクリントン氏より286万票も少なかった。こうした逆転現象は米国史上5回あり、うち2回は00年以降に起きた。

選挙人団による間接選挙については、古くから多くの問題が指摘されている。とくに批判されてきたのが、勝者総取りルールだ。選挙人配分ルールは各州が定めると憲法に明記されており、建国初期には多様な制度が混在した。だが現在はネブラスカとメインを除き、48の州とワシントンDCが勝者総取りを採用し、各州に割り当てられた選挙人総数を州内投票の勝者に分配している。逆転現象が起きるのもこの制度のせいだ。問題点が多いのは周知の事実であるが、改正は進まない。なぜか。

その構造の少なくとも一部は、ゲーム理論的な分析によって明らかにできる。まず、このゲームの3要素(プレーヤー、戦略、利得)を考えよう。「プレーヤー」は各州である。「戦略」は、割り当てられた選挙人をいかに配分するかのルールだ。勝者総取りでも、比例配分やほかの方法でもよい。各州の目的は、自州の市民の意見をできるだけ強く米国全体の決定に反映させることだ。したがって「利得」は市民の投票と全体決定が一致する確率によって表せる。

「勝者総取り」のジレンマ

このゲームでは、勝者総取りが「支配戦略」だと示すことができる。つまり、ほかの州がどんなルールを採ろうが、各州は勝者総取りによって利得を最大化できる。多数派が何%であろうとそこに「全張り」する戦略が最適というわけだ。よって、すべての州が勝者総取り以外の戦略に変更する誘因を持たない状況が、ゲーム理論でいうナッシュ均衡となる。

ところが、この均衡は「パレート支配」されてしまう。すなわち、いかなる州の利得も損なわず、すべての州の利得を上げること、パレート改善が可能だ。どういうことか。各州は、市民の意見を最大限に反映させるために極限まで多数派の意見を強調したい。すべての州がそのような戦略を用いると、集約される意見に歪みが含まれる。結果、社会全体で見ると、各市民の意見が決定に反映される確率は逆に下がってしまう。一方、全州が比例配分ルールを用いるなら、各市民の意見はより正確に全体決定に反映される。このほうがすべての市民にとって望ましい。