新型コロナウイルスの感染者が増加し続けているにもかかわらず、政府は7月22日から国民に国内旅行を奨励する観光支援策「Go To トラベル」を開始した。しかも、開始数日前に東京を目的地とする旅行ならびに東京都民の旅行は除外するという規定を設けた。人の移動が増えれば感染リスクが高まる。他方、経済的には危機的状況にあるホテル・旅館業、交通業、飲食業などを支援する必要がある。政府としては、所与の状況下で、感染症対策と経済振興策の均衡を考えたのであろうが、アクセルとブレーキを同時に踏むような政策なので、国民にはわかりにくい。「Go To トラベル」の問題は国民の関心をいっそう内向きにした。その結果、日本の国益に影響を与えうる外交の変化に対して世論が鈍感になっている。

筆者が現在、最も注視しているのは、日韓の歴史認識問題を北朝鮮が利用し始めていることだ。

この問題の発端は、2019年末に生じた。世界文化遺産に登録された長崎市の軍艦島など「明治日本の産業革命遺産」に関して日本がユネスコ(国連教育科学文化機関)に提出した保全状況報告書に対して、12月3日に韓国外交省が遺憾の意を表明する論評を出した。韓国は、東京都新宿区に設けられる「産業遺産情報センター」(20年6月15日から一般公開)の説明文を問題にしている。〈韓国外交省の論評では、日本は15年に遺産登録が決まった際、「(朝鮮半島出身の)強制労役の犠牲者を記憶にとどめる措置をとることを約束した」と主張。日本側に「約束通りの措置」をとるように求めた。/実際、日本は15年の世界遺産委員会で「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者」がいたことを認め、当時の徴用政策について理解できるような措置を講じると表明。その際、情報センターを設置することも明らかにしている。/ただ、日本政府関係者は、韓国側が問題視する徴用工が「支えた」との表現について「朝鮮半島出身者が産業の現場を支えていたという文脈で、日本の産業を支持していたとの意味ではない」と説明。情報センターを東京に設けることについては、遺産が8県に及ぶことから「全国の情報を集約して発信する拠点としてふさわしい」と判断したとしている〉(19年12月4日付「朝日新聞デジタル」)。