意外と実用化に近い技術も、問題はコストとリスク
評者/サイエンスライター 佐藤健太郎

『いつになったら宇宙エレベーターで月に行けて、3Dプリンターで臓器が作れるんだい!? 気になる最先端テクノロジー10のゆくえ』ケリー&ザック・ウィーナースミス 著/中川 泉 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Kelly Weinersmith、 Zach Weinersmith ケリーは米ライス大学・生物科学非常勤教員。宿主を操る寄生生物を研究。ザックはマニアックな人気ウェブコミック「サタデー・モーニング・ブレックファースト」の一コマ漫画家。2人は夫婦で、トップ20に入る科学ポッドキャストも運営。

数十年前になされた未来予測を見ると、2020年の世界に住むわれわれは、月まで自在に観光旅行に行ったり、錠剤1つでがんを治したりできることになっている。一方、通信やゲーム、代金の支払いまでもこなす、手のひらに乗る機械の出現は、誰一人予想していなかった。技術予測は、かくも難しい。

社会を一変させる新技術と喧伝されながら、なかなか実用化に至らぬケースは少なくない。何が問題なのか、それらは今どういう段階にあるのか? 本書は、タイトルにある通り「いつになったら実現するのか」と言われ続けている10の技術を取り上げ、その現状を追った。

取り上げられているのは、核融合エネルギー、さまざまな物に変身できるスマート材料、有用物質を生産する合成生物、脳とコンピュータの直接接続など多岐にわたる。これらが実現すれば世界はどう変わるか、その一方でどのような危険が生じうるかなどを、著者らは皮肉とユーモアを交えつつ丁寧に調査、検証している(もっとも著者らのユーモアや、挿入されているマンガのセンスは、日本人読者には少々理解し難いものが多く、これが本書の難点ではある)。

取り上げた題材のいくつかは、われわれが思うよりずっと実用化に近づいている。たとえば、遺伝子情報や血液中の物質の分析に基づいて、個々の患者に最適な医療手段を提供する「プレシジョン・メディシン」(精密医療)は、すでにがん治療の分野などで実現しつつある。だが、その展開を阻んでいるのはやはりコストの問題で、近年の抗がん剤の高額化の要因だ。一方、たとえば遺伝情報から病気のかかりやすさが割り出せるようになれば、就職差別などの新たな問題にもつながりうる。

近年注目を浴びる遺伝子編集技術「クリスパー」についても、詳しく説明がされている。これによって、生物に新たな能力を付与することができるのだ。たとえば草の繊維をジェット燃料に変換する細菌を、遺伝子編集によって作り出すプロジェクトが進行しているという。これだけなら地球環境にとって大いなる朗報だが、この細菌が自然界に漏れ出した場合何が起こるかは、全くの未知数だ。先鋭的な技術ほど及ぼす影響も大きく、社会実装の壁も厚くなってしまうのだ。

おちゃらけた調子で書かれてはいるものの、調べは行き届いており、レベルは高い。俎上に載せられた技術に関心のある人はもちろん、技術の実用化について考えたい人にも、参考になる一冊だろう。