敵基地攻撃能力の保有に向けた自民党のアプローチに、筆者は強い危惧を覚えている。

自民党の弾道ミサイル防衛に関する検討チームが、7月10日に東京・永田町の党本部で第2回会合を行った。〈谷内正太郎・前国家安全保障局長と神保謙・慶応大教授が講師として出席。敵基地攻撃能力の保有を念頭に、防衛力を強めるためには一定の打撃力の保有は必要で、日本が同盟の補完的役割を強化することは米国も歓迎するだろうといった説明があったという。/検討チームは敵基地攻撃能力の保有についても議論し、7月中に提言をまとめる。自民党は過去に敵基地攻撃能力の保有について政府に検討を求めた経緯があり、改めて必要性を訴える内容になるとみられる〉(7月11日付「朝日新聞」朝刊)。

谷内氏が敵基地攻撃能力保有に関して、公の場で前向きの発言をし、それが新聞に報じられたことによってこれまでと位相が変わることになった。谷内氏は元外務事務次官で外交実務に通暁している。しかも2019年9月まで国家安全保障局長を務めていた。公職から退任して1年足らずの人物が、日本の安全保障政策を抜本的に変化させる敵基地攻撃能力保有に踏み込んだことで、ロシア、中国、北朝鮮、韓国は、日本政府は本気で政策変更に踏み切るつもりだと判断するであろう。

「盾」である地上型ミサイル防衛システム「イージス・アショア」の配備計画が中止になったので、「矛」である敵基地攻撃能力を保有することでその穴を埋めようというのはあまりに単純な発想だ。自民党の対応に筆者は2つの点で違和感を覚える。

第1に、この種の議論は、防衛と安全保障の専門家が極秘裏に検討することだからだ。秘密保全がなされない状態で政治家や元官僚が議論すべき性質の事柄ではない。中国やロシアは、日本が安全保障上の機密事項を公の場で議論していることに当惑していると思う。