新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るっている。こういった感染性の病気の拡大防止は、政策主導の防止対策の強化に加えて、一人ひとりの感染予防行動に懸かっている。予防行動はワクチンなど医薬品を用いるものと、手洗い・うがいや行動制限などに分類されるが、ワクチンが未開発の場合、後者に限られる。

経済学では行動への誘因(インセンティブ)として補助金など金銭的なものを考えることが多いが、感染症予防行為における重要な動機として明らかになっているのが、自身の感染リスクだ。具体的には、自己の感染リスクが高いと認識すると予防行動への意欲が高まるが、リスクが低下すると低くなる。リスクの認識と予防行動の意思決定に関係があることは、これまでの研究で麻疹(ましん)、HIV感染症、インフルエンザなどさまざまな疾病において示されてきた。一見当たり前のようだが、これが感染症のコントロールを難しくする理由の1つ目である。

感染が終息に至っていない状況を考えてみよう。感染拡大の局面では自身の感染リスクも高まるため、予防行動に積極的になる。しかし、いったん感染が収まってくると感染リスクが低下するため、予防行動から遠ざかってしまうことも多い。予防行動の減少が、再び感染症の拡大へとつながるのである。よって感染が落ち着いてきた局面でこそ、手洗い・うがいなど予防行動の徹底が重要といえる。

予防行動の誘因の異質性

感染症のコントロールが困難なもう1つの理由は、予防行動を取る動機を強く持つ人(例えば重症化リスクの高い人)と、予防行動の感染拡大防止効果が高い人(例えば感染させる力の強い人)が異なるかもしれないことだ。新型コロナの感染拡大のメカニズムは明らかになっていないため、インフルエンザの疫学的特徴を念頭に置いた研究について紹介したい。