民間が建て、裁判所が満たす。内部は監獄映画そのもの
評者/ジャーナリスト 中岡 望

『アメリカン・プリズン 潜入記者の見た知られざる刑務所ビジネス』シェーン・バウアー 著/満園真木 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Shane Bauer 米『マザー・ジョーンズ』誌のシニア・レポーター。ナショナル・マガジン・アワード(報道部門)、ゴールドスミス・プライズ(調査報道部門)、ヒルマン・プライズ(雑誌ジャーナリズム部門)などの受賞歴を誇る。共著にイランでの囚人生活を描いた『A Silver of Light』。

「刑務所を民営化する」という提案をしたら、日本では猛反発を食らうだろう。しかし刑務所の民営化構想は古くからある。哲学者ジェレミ・ベンサムが刑罰政策を“効率的”かつ“人間的”なものとするために刑務所の民営化を提案したのは1791年だ。中央に監視塔を配して効率的に監視する刑務所で、「パノプティコン」と呼ばれる。企業は囚人に1日16時間労働を課し、利益を得る。

当時、ベンサムの案が採用されることはなかった。しかし、現在それはいくつかの国で現実化している。米国ではルイジアナ州政府が1844年に最初の民営化を実施。経費を削減したい州政府と新事業で利益を上げたい企業の思惑が一致したものだ(囚人たちの強制労働は州政府にも利益をもたらした)。

ちなみに1865年(この年の4月に南北戦争終結)に奴隷制度廃止を決めた「憲法修正13条」の条文には、適正な手続きを経て収監された囚人の強制労働は例外として容認すると書かれている。奴隷制廃止後に、民営刑務所は急増した。

現在のような民営刑務所制度が米国で本格的に始まったのは1980年代。本書によれば、レーガン政権の民営化政策に加え、「財政引き締めと犯罪厳罰化というふたつの保守主義ががっちり手を組んだ結果、企業が次々と刑務所を建て、裁判所がそこをいっぱいにするというサイクルが生まれた」。2017年時点で、民営刑務所に収容されている囚人は約12万人、全囚人の8%強を占めている。最近ではトランプ政権のもとで不法移民収容施設の民営化も急速に進んでいる。

著者は、かつてイランで取材中に逮捕、投獄されたことがあるフリー・ジャーナリスト。その経験から米国の刑務所制度に関心を抱くようになる。特に民営刑務所は秘密主義で知られ、その実態は厚いベールに覆われていた。

そこで「民営刑務所の内部で何が起こっているかを知る」ために記者の身分を偽って民営刑務所に就職する。本書は民営刑務所で著者が経験した4カ月の記録であり、さらに民営刑務所の詳細な歴史の記述が加えられている。

著者は「アメリカの歴史上、企業や政府が囚われの人々を使って金を儲けようとしなかった時代はなかった」と書く。著者が潜入したルイジアナ州ウィン矯正センターを運営するコレクションズ・コーポレーション・オブ・アメリカの2018年の純利益は2億3100万ドルに達している。同センターは契約によって96%の収容率が保障される一方、看守は低賃金(著者の場合、時給9ドル)で、損をしない仕組みになっている。

著者が刑務所の中で見たのは、劣悪な環境、暴力沙汰や暴動といった“監獄映画”でお決まりのシーンばかりだ。もう1つの重要な事実は、囚人の大半が黒人であるということだ。現在、米国では白人警察官による黒人の殺害をきっかけに抗議運動がわき起こり、一部は暴動化している。本書は米国社会の暗部を、違う側面から照らしている。

このテーマに関心がある読者には、アンジェラ・デイヴィス著『監獄ビジネス グローバリズムと産獄複合体』(岩波書店)を併読することをお勧めする。