ネットに答えはない、差別化製品はポンチ絵から
評者/福井県立大学名誉教授 中沢孝夫

『良い製品開発 実践的ものづくり現場学』三木博幸 著/藤本隆宏 解説(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

[Profile]みき・ひろゆき/1945年生まれ。64年クボタ鉄工(現クボタ)入社。2004年まで、ほぼ一貫して耕運機、田植機、トラクターの開発、事業革新に従事。技術部長、理事を歴任。04年クボタ機械設計社長。10年退職、コスト開発研究所を設立し、現在、同研究所代表。

ものづくりの会社の経営のキモとも言える製品開発とその設計方法の、全体の流れを語った本である。基本は著者の50年を超える製品開発の経験の集大成としてのDTC(Design to Cost)という設計概念にある。

解説者・藤本隆宏氏は、本書の主張は①「部品半減・コスト半減」法の実例と提案、②設計現場におけるデジタル開発の普及の功罪とチームワーク重視の製品開発への回帰の勧め、③顧客ニーズと製品コンセプトを起点とする部門横断的なプロジェクト型製品開発、の3つであるとする。

例えば②。CADとNC機器の発達は、ものづくりの微細化、簡易化、速度向上を実現したが、一方でものづくりの基本である誰のために、何を、どのように、というコンセプトを置き去りにしつつある。標準的な組み合わせ型の部品を作るにはそれでもよいが、個別の会社の強み=固有性を持つ製品開発はそうはいかない。評者も1500社超の現場で聞き取り調査を行っているが、他社と異なる製品の開発現場では、著者がくり返し指摘する、手書きの設計図(ポンチ絵)から説明ははじまる。

本書では、AIやIoTなる用語はホンの数回しか出てこない。当然である。大切なのはオリジナリティであって、ググって用が足りる情報に固有性はない。

例えば、コストダウンには「部品の共通化・標準化による低減」と、「部品の統合化・点数削減による低減」という2つの方法があるが、著者の設計思想は後者にある。どういうことか。部品を削減したり、加工方法や素材を変えたりして、例えば製品の重量を軽くすると積み降ろし作業が楽になるという効果がある。あるいはコンバインの変則操作を単純化し、使い勝手をよくする。こうした工夫により、コストダウンと同時にユーザーの利便性を生み出せる。部品共通化は作り手の都合だ。ほかにも、板金の工法、溶接リバースエンジニアリング(製品を解体して全体像を理解する)などどれも具体的だ。

本書は自動販売機の省エネの方法、田植機や小型トラクターの設計など、著者が手がけた沢山の開発事例と、それに関連した顧客のレスポンスを紹介していて、それらはすべてデジタル化できない情報である。

長年、機械大手クボタで開発リーダーを務めてきた著者は、現在、国内のみならず、韓、中、英、米などの設計現場での開発指導に従事している。豊富な経験に裏打ちされた「良い製品開発」が世界に広がることを願ってやまない。