尾道は、その名を誰もが一度は耳にしたことがあるほど観光地として有名な、広島県東南部の街だ。尾道と聞けば、林芙美子の『放浪記』の一節、「赤い千光寺の塔が見える、山は爽(さわ)やかな若葉だ。緑色の海向うにドックの赤い船が、帆柱を空に突きさしている。私は涙があふれていた」、あるいは志賀直哉の長編小説『暗夜行路』での「六時になると上の千光寺で刻(とき)の鐘をつく。ごーんとなると直ぐゴーンと反響が一つ、又一つ、又一つ、それが遠くから帰ってくる。その頃から昼間は向い島の山と山の間に一寸頭を見せている百貫(ひゃっかん)島の燈台が光り出す。それはピカリと光って又消える。造船所の銅を熔(と)かしたような火が水に映り出す」などという描写があり、「文学の街」として思いをはせる人がいるだろう。

また、小津安二郎監督の映画『東京物語』で、周吉と紀子が浄土寺から尾道水道を眺めながら語らう姿を思う人。先日82歳で亡くなった大林宣彦監督が手掛けた尾道三部作(『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』)を見て監督の街への深い愛情に涙する人。そんな、「映画の街」として憧れる人もいるかもしれない。