グルダのピアノソナタ全曲録音盤(1967年)は現在もさまざまなエディションで聴き継がれている(©ユニバーサル ミュージック)

今年生誕250年を迎える作曲家ベートーヴェン(1770〜1827)と楽器の結び付きを考えた際、真っ先に頭に浮かぶのがピアノだ。若きベートーヴェンが無双のピアニストであったことは数々の文献に記されている。恐るべき即興演奏能力によってウィーンの人々を震撼(しんかん)させたのは1792年。ベートーヴェン22歳の年だった。それまでの主流だった洗練された演奏とはまったく違う、音楽の本質を描き出す圧倒的な表現力と斬新な着想。さらにピアノからオーケストラのような響きを得ようとさえする者は、その後フランツ・リスト(1811〜86)が登場するまで、ほかには誰一人存在しえなかった。

そのベートーヴェンが遺した32曲の番号つき「ピアノソナタ」は“クラシック音楽の新約聖書”とたたえられる名作だ(“旧約聖書”はヨハン・セバスチャン・バッハ〈1685〜1750〉の『平均律クラヴィーア曲集』とされる)。1782年ごろ手がけた『3つの選帝侯ソナタ』(習作のため番号はついていない)から、1822年に完成させた最後の『ピアノソナタ第32番』まで、約40年にわたってコンスタントに作曲を続けたジャンルはピアノソナタのみという点からも、ベートーヴェンとピアノの強い結び付きが感じられる。