「資源通過国」に「地技学」 一味違う地政学の入門書
評者/帝京大学教授 渡邊啓貴

『資源地政学 グローバル・エネルギー競争と戦略的パートナーシップ』稲垣文昭、玉井良尚、宮𦚰 昇 編(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

[Profile]いながき・ふみあき/1971年生まれ。秋田大学大学院国際資源学研究科講師。専攻は中央アジア・旧ソ連の地域研究、エネルギーなど。たまい・よしなお岡山理科大学講師、京都先端科学大学講師。みやわき・のぼる1969年生まれ。立命館大学政策科学部教授。専攻は国際政治、国際公共政策、安全保障政策。編著に『新グローバル公共政策』。

書店に並ぶ地政学関連書の多くは、大国間の権力争いの延長線上にある。本書はグローバルな資源をめぐる動きに焦点を定め、世界の動きを読もうという新しい視点を提供してくれる。

資源をめぐる議論は地政学的発想と親密だ。19世紀にドイツで発展した「陸の地政学」は、海上輸送の安全に重きを置く米英の「海の地政学」に対し、農産物、エネルギーなど天然資源の確保のための大国の勢力拡大を肯定したものだ。

一般に資源問題は、資源産出国と消費国の関係が論じられるが、本書ではグローバル化が進む中で「資源通過国」の重要性を指摘し、それを「接続性」や「連結性」という用語で表現する。畢竟(ひっきょう)、中央アジア、アフガニスタンといった内陸国や北極海航路についての例が詳しく検証される。ユーラシア大陸を横断する中国の「一帯一路」構想もそうしたアプローチの1つだ。

もう1つ、本書が一般の地政学関連書と異なるのは、資源をデモクラシーや近代化と結び付けたグローバルな課題として捉えている点だ。絶えざる民族紛争によって国内的安定が保たれないボリビアは、豊富な資源が十分な工業化や経済成長に結び付かないという代表例である。本書はそれを「資源の呪い」と表現する。

21世紀に入って新たに地政学に大きな関心がもたれている背景には、中国の台頭とロシアの復興がある。米国中心の世界の勢力地図が揺らいでいるからだ。米国一国主義を主張するトランプ政権の外交はそれを増幅する。

ここで重要なキーワードはテクノロジーだ。トランプ外交の背景にはテクノロジー発展に伴った新しい資源開発、「シェール・オイル/ガス」の成功があるという。イラン核合意の破棄は米国が中東産油国を重視しなくなった表れと指摘する。テクノロジーは地政学的思考に新たな領域を開き始めている。

これを本書は「4D(四次元)地政学」と呼ぶ。さらに、情報通信技術の発達に伴う学術的アプローチついて「地技学」という言葉も生み出す。さまざまな概念のオンパレードだが、いろいろなヒントを拾うこともできるだろう。

資源と言うと石油・ガス、鉱物などを考えがちだが、本書は水資源についても1章を割いていて、守備範囲が広いうえ、解説は一般読者にもわかりやすく書かれている。

資源とそれをめぐるさまざまな動きを通して、現在の複雑な国際情勢をもう一歩踏み込んで理解するのに格好の1冊である。