ハイネの詩に曲をつけた『美しき5月に』には、シューマンの美意識が詰め込まれている(Getty Images)

“風薫る5月”は、クラシック史上に名を残す大作曲家たちにも憧れの季節だったようだ。5月を描いた作品は、ほかの月よりずっと多く感じられる。冬が長く春の訪れが遅いヨーロッパの人々にとって、陽光輝く季節の到来は大いなる喜びなのだろう。

モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトは、『5月の歌』というシンプルなタイトルの作品によって麗しい季節の到来を歌い上げ、ブラームスは『5月の夜』で晩春の情景を見事に描き出している。メンデルスゾーンの『5月のそよ風』(『無言歌集』より)の愛らしいメロディーも見逃せないが、何といっても印象的なのは、ロベルト・シューマン(1810〜56)の歌曲集『詩人の恋』の冒頭を飾る『美しき5月に』だ。

「奇跡かと思えるような美しい春5月 蕾(つぼみ)という蕾がほころび始めたとき 僕の胸の中にも恋心が芽生える。奇跡かと思えるような美しい春5月 鳥という鳥が歌い出したとき 僕は憧れに疼(うず)く思いをあの人に打ち明けた」(筆者訳)と歌うこの曲の美しさと切なさは破格。クラシック史上最高のロマンチスト・シューマンの美意識がそこかしこに感じられる名作だ。