リーマンショック直後の2008年11月に英国のエリザベス女王はロンドン大学の著名な経済学者に対して質問した。「あなたたちはどうして誰も金融危機を予見できなかったのか」と。これに対して経済学者たちは返答に窮し、ささいなことにとらわれ大きな絵(Big picture)を見失いました、と謝るしかなかった。

新型コロナウイルスによる世界経済の混乱を事前に読み切れなかった経済学者に対して、同じ質問がなされても不思議ではない。中国で感染拡大が本格化した年初の時点で、先進各国の経済がこれだけ混乱することを予想していた経済学者はいなかった。

この原稿を書いている4月16日の時点でも、筆者はコロナウイルスが経済に悪影響を及ぼすメカニズムを正確に理解できていない。マスメディアやネットでも経済が大混乱に陥っているという事実は伝えられているが、全体の構造が語られることはない。

物価の研究者である筆者が最近頻繁に聞かれるのが、コロナショックで日本はまたデフレに逆戻りですかという質問だ。これに対して筆者は肯定とも否定ともとれる受け答えをせざるをえない。筆者にはわからないからだ。

これだけ景気が悪くて株も暴落しているのだから当然デフレだというのが多くの人の見方だ。しかし、言いよどまざるをえない理由が確かにある。以下では簡単な例を用いてそれを説明し、コロナウイルスが経済に悪影響を及ぼす仕組みを理解する糸口を提供したい。