普段は多くの観光客らでにぎわうバチカンのサンピエトロ広場(撮影:津村一史)

イタリア人の陽気なおしゃべりが街から消えた。普段は観光客であふれかえるローマの名所を歩いても人影はない。現実感を持てない暮らしが続く中、同国で新型コロナウイルスに感染した死者の数は世界最悪規模で増え続けている。先進7カ国の一角で起きた医療崩壊は「建国以来の危機」(コンテ首相)に発展。被害を食い止めようと政府は次々に感染拡大防止策を打ち出すが、市民生活への影響は計り知れず、事態収束の見通しは立たないままだ。

「この戦争を遂行するために必要な軍需品が、われわれの国にはまだない」。イタリアで最初の感染者が確認されてからすでに2カ月近くが経っていた3月下旬、政府の緊急対策責任者ドメニコ・アルクーリ氏は同国で医療物資が不足する現状をそう表現した。

新型コロナウイルスとの戦いにおいて、死者数抑制に決定的な役割を果たす人工呼吸器は「これまで国内でほとんど生産されてこなかった」(アルクーリ氏)。医療現場からは、生存の可能性が低い高齢者に呼吸器を使うことができず、若者の治療を優先する「命の選別」を迫られたとの証言も出ている。

コンテ首相は3月23日付の新聞インタビューで6500台の人工呼吸器を購入し速やかに配備すると表明した。だが、その後の3週間で実際に現場に届いたのは約2000台。国内唯一の人工呼吸器工場では月150台だった生産を、政府の要請で500台に増やすとしたが、技術的困難が伴い、軍や自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)も協力に乗り出した。