参加型社会をどう作るか、「知識補給」が理解助ける
評者・甲南女子大学教授 林 雅彦

『ちょっと気になる「働き方」の話』権丈英子 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] けんじょう・えいこ 慶応大学商学部卒業、同大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学、オランダ・アムステルダム大学経済学研究科博士課程修了、Ph.D.(経済学)。現在亜細亜大学経済学部教授、副学長。共著に『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』など。

労働時間の上限規制、毎年の最低賃金の大幅引き上げなど、安倍政権は、かつての民主党政権でもできなかったことを実現してきた。「働き方改革」だけでなく「女性活躍」を強力に推進したのも安倍政権だ。なぜか? これは、少子高齢化が深化した今、経済・財政の観点から待ったなしでやらねばならなかったからだ。

今やらねばならぬこととは「一億総活躍社会」の実現であり、著者の言葉を借りれば「分業型社会」から「参加型社会」への転換である。「分業型社会」イデオロギー信奉者が多いと見られる勢力に強く支持されている安倍首相に、その転換役がめぐってきたのは歴史の皮肉といえようか。

その「参加型社会」への転換のカギは、長時間労働の解消に加え、女性、高齢者、そして、日本では特異な広がりを見せた非正規労働者にある。

本書は第1章でこれらについて現状、課題、現在の政策対応を概観し、第2章以下でそれぞれについて深掘りをしている。また、1990年代に日本で大いに話題とされるも、近年はほとんど言及されない「オランダモデル」に1章を割いている。90年代当時は、日本と前提条件が違いすぎて政策対応上参考とすべき点は少なかった。しかし、ワーク・ライフ・バランスに関する考えの浸透が進む今こそ学ぶべき点もあり、実に時宜を得た選択である。

論点選択に加えさらなる魅力の1つは、社会保障政策にまで十分に目配りをした記述である。労働政策と社会保障政策は密接不可分で、事実、厚生労働省の誕生は両政策の円滑な連携に大きく寄与した(巨大官庁ゆえの再解体論もあるが、仮に分割するなら健康、医療を切り離すのが筋である)。本書は学術における両分野の見事な連携の1つだ。ちなみに、この「ちょっと気になる」シリーズの第3弾までの著者は、社会保障分野の泰斗である権丈善一・慶応大学教授、著者の夫君である。

そして最大の魅力が、このシリーズの特徴でもある「知識補給」だ。注を超える大きな寄り道を25の「知識補給」としてコラム化している。日本の家族政策の特徴や年金適用拡大の重要性など重要な論点の数々が取り上げられ、特に「賃金を上げ、適用拡大を進めるのが成長戦略になるという話」などは必読だ。かと思えば、くるみんマーク(子育て支援企業の認定証)の経年変化といった超トリビアルな話題もある。テーマの幅が広く、これを読むだけでも楽しくためになる。ちょこちょこと夫君が登場するのもご愛敬だ。