終息が見えない新型コロナウイルス。3月3日時点で世界の感染者数は9万人を突破、死者数は3000人を超えた。

販売の低迷やサプライチェーン(供給網)の混乱によって、日本企業も大きな打撃を受けている。その筆頭が、世界最大を誇る中国の新車市場で稼ぐ自動車メーカーだ。

1日当たり平均販売台数(2月1~23日)は前年同期比89%減──。中国の自動車業界団体が発表した最新の新車販売データに業界関係者はショックを受けた。2月1~9日の同96%減からはやや緩和したとはいえ、すさまじい落ち込みだ。

みずほ銀行法人推進部の湯進(タンジン)・主任研究員は、感染の中心地である湖北省以外で仮に3月末までに終息の見通しが立った場合でも、「1~3月の中国国内の新車販売台数は前年比で4割減、通年でも8~10%程度は減る」と試算する。

自動車の現地生産自体も低調なままだ。トヨタ自動車が中国全4工場の操業を再開するなど、湖北省以外では徐々に最悪期を脱しつつある。ただし、職場復帰できていない従業員が多いうえ、部品不足も重なり、フル稼働には程遠い。

湖北省は操業再開時期を現時点で「3月11日以降」としているが、これは楽観的なシナリオだ。同省武漢の現地自動車メーカー幹部と日常的に情報を交換しているという湯氏は、「武漢は今も戦時体制に近い状況。3月中に操業を再開しても正常な稼働はほぼ無理。5月下旬ごろが現実的なシナリオではないか」とみる。

となると、湖北省に完成車工場を構えるホンダ日産自動車は苦しくなる。ホンダの武漢3工場の年間生産能力は60万台に上り、中国内のおよそ半分を占める。また、ホンダと日産は世界販売台数に占める中国比率が30%とトヨタの17%と比べて倍近い。

中国では原則、現地メーカーとの折半出資による合弁会社で生産・販売事業を展開しなければならず、その収益は連結業績上、持ち分法投資損益に反映される。日産の2019年度の持ち分利益は2185億円で、大半は中国で稼いだものだ。

そのドル箱市場で販売低迷と生産停止が続けば、死活問題である。ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストの試算では、仮に中国での販売台数が年間10%減少した場合、ホンダと日産の連結純利益をいずれも650億円下押しするという。とくに世界的な販売不振が続く日産は純利益の水準自体が低く(19年度予想650億円)、日系メーカーの中でも業績への影響が大きい。

生産停止に戦々恐々

中国生産拠点の稼働停止や低稼働率の長期化で、世界的なサプライチェーンにも支障が出始めている。中国内で生産される完成車は基本的に中国市場向けであるのに対し、部品に関しては中国国外への巨大な供給拠点になっているからだ。

車1台に使われる部品は2万~3万点。素材から電装品、タイヤ、ボルトに至るまで裾野が広く、部品が数点足りないだけで車の生産に支障が出る。

部品メーカーは仕入れ先の生産や物流の状況を日々確認し、部品供給を途切れさせまいと必死だ。

「このままだとそのうち部品在庫が切れる。完成車メーカーの生産ラインを止めるトップバッターにだけはなりたくない。日本での代替生産など対応策で毎日頭をひねっている」。ホンダ系部品メーカーの幹部は戦々恐々としている。

実際、日産は中国からの部品調達が滞ったとして、これまで九州や関東の工場で数日間の生産調整を実施。日産車体も、2月後半~3月上旬に九州など2工場で延べ8日間、生産を止めた。

九州地域では、距離的な近さを理由に中国製部品が使われる割合が高い。日産関係者によると、ある1車種だけで燃料タンクやアルミホイール、エアバッグなど約20点もの部品が、今後の調達に懸念があるリスク部品に指定されている。

また近年は複数の車種間で同じプラットホームを使い、部品の共通化を進めつつある。ある部品が不足すると、一気に複数車種の生産停止にまで波及してしまう可能性も高くなるわけだ。

日本の自動車部品市場約27兆円のうち、輸入部品は約9600億円と3%程度。ただ輸入部品の最大の生産国は中国で、35%超(18年)を占める。その多くはばねやケーブル、繊維・樹脂製部品など比較的かさばらず運びやすいものだ。

日系自動車メーカーの中国展開と連動してサプライチェーンは中国に延びてきた。だが感染症による寸断リスクを十分に想定していたとは言いがたい。

ホンダも3月上旬に国内2工場で一部車種を減産する方針を決めるなど、問題はすでに業界全体に波及し始めている。感染が拡大している日本では今後、工場で感染者が出るリスクもある。日本車メーカーは綱渡りの操業を強いられている。

生産が遅れるスマホ

新型コロナの悪影響は、自動車業界以外の製造業にも出始めている。

日系メーカーのシェアが高い電子部品では、車載向けのほかスマートフォン向けの販売が厳しい。顧客であるスマホメーカーの生産が遅れているためだ。

米アップルは2月17日、20年1~3月期の売り上げ予想630億~670億ドルが未達になると発表。新型コロナの影響で中国にあるiPhoneの製造工場の稼働率が低下している。

iPhoneをはじめ、スマホの多くは中国や台湾系のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業が主に中国の工場で生産している。スマホの世界生産の約6割が中国だ。新型コロナの感染拡大により、春節休暇後も操業再開の動きは鈍い。

「3月半ば以降に(業績予想の)下方修正ラッシュが起きるかもしれない」(スマホ用部品メーカー幹部)という声が上がる。村田製作所TDKなど多くの企業は19年10~12月期業績が好調だっただけに、水を差された格好だ。

経営再建中の中小型液晶メーカー、ジャパンディスプレイは売り上げの6割程度をアップル向けが占める。白山工場の休止などリストラによって、昨年10月にようやく単月黒字化を達成できたが、アップルの減速による影響は大きいとみられ、予断を許さない。

スマホ向け部品を造る企業の中で、業績予想を上方修正したのがソニーだ。2月4日に20年3月期の営業利益予想を従来の8400億円から8800億円に引き上げた。世界シェアの過半を握る、スマホのカメラなどに搭載される半導体「CMOSイメージセンサー」の販売が好調なのが要因だ。

ただし予想数値には新型コロナの影響を織り込んでいない。十時裕樹CFO(最高財務責任者)を本部長とする対策本部を設置して調査を始めており、「上方修正を打ち消す規模の影響が出る可能性がある」(十時CFO)と警戒する。

世界半導体市場統計(WSTS)によると、19年の世界の半導体市場は市況悪化で前年比13%減と落ち込む一方、20年は同5.8%増と回復が期待されていた。だが米ガートナーの調査では、新型コロナが3月末に終息しても、世界の半導体市場の成長を2.3ポイント押し下げると見込まれており、先行きに暗雲が漂う。