人工知能(AI)が経済の各方面に広がり、人間の仕事がロボットに置き換えられる可能性が高まってきた。多くにとっては「可能性」というより「脅威」と呼んだほうがいいかもしれない。こうした見立てどおりに事が進むなら、仕事は次々と機械化されていき、いずれは大量失業時代がやってくる。増えるのは技術の上流に位置するスペシャリストの仕事だけという未来だ。貧困の爆発という最悪の事態を見越して、失業者に無条件で最低限の生活費を配るベーシックインカム(BI)の導入を訴える専門家も少なくない。

私たちが現在「仕事」と呼んでいる狭義の労働は19世紀末に現れた。急速な工業化で企業が大規模化し、職場と家庭が分離していったのである。家庭内労働は徐々に雇用による有償労働に置き換えられていき、家事や自給的な農業、ご近所の物々交換は価値を生み出す活動とは見なされなくなった。無償労働が消えたわけではないが、賃金を生まない家庭内労働は無視され、統計にも反映されず、社会保障のらち外に置かれた。

当時の社会科学者によれば、無償労働は過去の遺物であり、技術や商業化の発展に伴っていずれは有償労働に置き換えられるはずだった。しかし現実にはそうならなかった。確かに雇用関係は広がったが、途上国の安すぎる賃金では家族を養えず、自給自足の家庭内労働で不足分を補わなければならないのが普通だった。そして先進国でも、1980年代以降は無償労働の存在感が再び増してきた。