2019年12月29日に日本を密出国し、レバノンに逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(65)の逆襲が始まった。1月8日、ゴーン被告はレバノンの首都ベイルートで記者会見を行った。ゴーン被告は、堂々と以下のような陰謀論を披露した。〈私は正義から逃げたわけではない。不正義から逃げたのだ。自分自身を守るほか選択肢はなかった。公平な裁判が不可能であることに観念し、唯一選べる道だった。難しい決断だった。/司法制度の正当性は有罪率に置かれるべきでなく、真実を尊重することへの信頼感に置かれるべきだ。日本の評判を壊したのは検事たちや日産の者たちだ。/私にかけられた嫌疑には根拠がない。これは計画された謀略だ〉(1月9日付「朝日新聞デジタル」)。

ゴーン被告の会見に対し、日本のマスメディアは冷ややかだ。朝日新聞の根津弥記者はこんな感想を記す。〈ゴーン前会長は会見で、日本で起訴された罪について改めて無罪を主張し、事件は日産や検察の「陰謀」だと強く主張した。だが、無罪を示す具体的な証拠や書面が示されることはなく、従来の主張の繰り返しに終始した。疑念を払拭するまでの説得力には欠けていたと言わざるを得ない。/(中略)自身の主張に自信があるのならなおのこと、なぜ正面から裁判で闘わずして海外に逃げたのか。強く疑問が残る〉(前掲朝日新聞)。根津記者は無意識のうちに検察と同じ視座に立っているので、ゴーン被告の内在的論理が見えていない。前々回の本連載でも書いたが、重要な事柄なので繰り返しておく。ゴーン被告が会見で述べたように、日本の刑事裁判では起訴されれば99.4%が有罪になる。ゴーン被告の場合、最高刑は懲役15年だ。最高裁判所までゴーン被告が徹底的に争うと10年かかる。検察はゴーン被告に対して、12年程度を求刑すると筆者はみている。刑事事件を担当する裁判官が出世するには、検察官控訴を受けないことが不文律だ。求刑の7割以下の判決を言い渡すと、検察官控訴を受ける可能性が高い。そうなるとゴーン被告は、懲役8年前後の実刑になることも排除されない。現在65歳のゴーン被告は、18年後には83歳。刑務所内の医療は貧弱だ。実刑になれば獄中死する可能性も十分ある。ゴーン被告が国外逃亡を図る動機は十分あった。仮に逃亡が露見して逮捕されることになっても、刑期は1〜2年しか延びない。ゴーン被告には、逃亡を実行する財力とネットワークがある。これらを総合的に考えれば、ゴーン被告が逃亡を選択したのは合理的なのだ。こんな当然すぎるほど当然のことを、検察庁や裁判所、弁護人が予測していなかったことのほうが問題だ。日本の法曹界は、ガラパゴス化している。