ベトナム戦争で5回も徴兵猶予を受けたトランプ米大統領は、戦争の現実を知らない。執務室から作戦を指揮するだけのトランプ氏は、敵国要人の殺害を外交政策の切り札と考えているに違いない。ドローンやライフルで大物を仕留めれば一件落着という発想だ。しかし暗殺が問題解決につながるという根拠はない。歴史は、暗殺が事態を激しく悪化させた事例であふれている。

暗殺はほとんどの場合、ヤケクソのギャンブルだ。まともな政治家が頼る手段ではなく、首謀者は主に過激派だった。欧米で暗殺が“全盛”となったのは19世紀後半〜20世紀前半。この頃、無政府主義者などによって数々の要人が殺されている。米大統領のガーフィールドとマッキンリー、ロシア皇帝アレクサンドル2世、ハプスブルク家の皇妃エリザベート、イタリア国王ウンベルト1世、フランス大統領カルノー、スペインの2人の首相といった具合だ。

無政府主義の刺客たちがロシアの思想家、バクーニンとクロポトキンを英雄視していたのは偶然ではない。19世紀ロシアの無政府主義者は、専制に対抗する手段として暗殺を正当化した。バクーニンとクロポトキンはこれを「行動による宣伝」と呼んだ。しかし彼らの暴力的アナキズムは、結果的にスターリニズムという最悪の恐怖政治を生み落とすことになる。