山下俊彦氏(1919−2012、1987年撮影)
「2021年度までに構造的赤字事業を撲滅する」。パナソニックの津賀一宏社長は11月22日、投資家向けの経営戦略説明会に先立つ会見でそう明言した。しかし、不採算事業からの撤退を進めるだけでは成長できるはずもない。パナソニックの苦悩は続いている。
しかし、過去にパナソニックが危機に陥ったことは何度もある。今回、お届けするのは1983年の山下社長へのインタビュー。業績面では90年代に入ってから本当の危機が始まるのだが、その前の絶好調の状況下でも、厳しい言葉で大企業病の深刻さを訴えているのが印象的だ。
「週刊東洋経済」1983年7月16日号より

安心感と事なかれ―松下も今や危機ですよ

松下電器社長という激務のかたわらで、イランやボルネオの高山に挑戦する山下俊彦氏。その型破りなところが、いつまでもフレッシュな感じを人に与え、「6年間も社長を務めたのに、いまだに新米扱いされる。私の場合、社長が板につかないんですよ」と語らせることになる。「明日社長を辞めてもこわくはない」という山下俊彦社長の本音の部分を聞く。

 

――思い起こせば1977(昭和52)年の〝山下跳び〟。「10年はできる人を」と松下幸之助相談役に指名された山下社長だが、早くも7年目を迎えた。一貫した政策は「意識革命」による松下連邦の活性化である。

山下 大企業は大きくなりすぎると、また業績をあげればあげるほど、一面ではピンチに陥っていくものです。なぜかといえば、大きくなったことによって、業績をあげたことによって、社内に安心感と事なかれ主義を生んでいくからです。組織の感度が鈍くなり、いつの間にか時代の変化に乗り遅れてしまう。

松下電器も相談役が3人で始めた事業が今日ここまで大きくなり、人材も集まり、資金にも余裕が出て、昔のことを思えばたしかに素晴らしい状態ですが、その反面では安心感、安易感が生まれている。環境の変化に機敏に対応できなくなり、小回りがきかない。大きくなったことによって、社員個々の仕事が完全な分業になり、全体との関連がつかめなくなり、セクショナリズムの弊害が出てくる。

いま大企業だからといって安心はできない。時代の変化は意外に激しく、『フォーチュン』誌などのアメリカ企業のランキングを見ても、浮沈は激しい。日本の経営者に経営の鏡とされたGMでも一時的にせよ赤字になった。

大企業ほど没落の危険性がある

山下 戦後、松下電器はフィリップスと提携し、技術修得に私も派遣されたが、そのとき松下電器はどんなに努力してもフィリップスと並ぶことはできない、と肌で感じた。あまりにもレベルが違いすぎた。ところが、今のフィリップスに往年の勢いはない。

フィリップスは真空管の技術が非常に強かった。この強すぎたことが裏目に出て半導体の時代に乗り遅れてしまった。松下電器は当初から事業部制を採用して、中小企業の連合体として小回りがきいていたが、いまや事業部の一つ一つが大きくなりすぎている。松下電器は家電の分野で成功を収めてきたが、その家電市場自体が成熟してあまり伸びが期待できない。

ところが一つのことで成功すると、その経験が金科玉条となって、その経験からはずれた仕事をするには非常な勇気がいる。家電の経験を捨てて、新しいことに挑戦する意欲が薄れていくことになる。

世間の評価が順調だと思われているときに、危機感を呼び起こし、意識革命を浸透させるのは非常に難しい。人間はほんとうにハングリーなときには立ち上がるが、そうでないときにはなかなか立ち上がらない。そうでないときに危機感を呼び起こし、意識革命を浸透させるのが、現代の経営者の使命だと思う。

相談役はそういうことで成功してきたが、私の仕事は現在の環境に適応したかたちで、松下電器に絶えず刺激を与えることだ。巨大企業が生き残るにはGEやIBMがそうしているように、巨大企業が生み出す欠点を自らの力で排除することしかない。

これまでの経験を捨てよ

山下 私はいままでの経験を捨てよ、といっている。経験が邪魔をして、新しいことができなくなる。いま本社と事業部の垣根を越えて人事異動をしているのも、そのためです。

活発な人事異動の中で、松下電器がこれからのターゲットにしているニューメディアやOA機器が育ってくるものと期待しています。

――「本社は小さいほどよい」が山下社長の信念である。昨年11月から今年5月までに、本社3400名のうち500名を第一線へ出したほか、本社の中堅幹部を引き続いて、事業部や系列会社に送っている。

ところで、山下体制の6年間を支えたものは、何といってもVTR。去年は失速しかかったが、今年は上向いている。

山下 VTRが今のところ柱になっているが、これもずっと続く保証はない。ニューメディアやOA機器があと2、3年もすると業績に寄与してくる見込みなので、それまでVTRになんとかもってもらいたい。

いま売り上げのうち、国内の家電が3分の1、輸出が3分の1、その他(情報、産業機器、電子部品など)が3分の1という構成だが、61年には、「家電の松下」というイメージからは抜け出していると思う。

ニューメディアは松下電器が得意とするテレビなどの端末から入っていけるが、端末をつなぐ通信技術・ソフトはまだまだ弱い。

――4月からIBMへのパソコンのOEM供給がスタートした。一方では富士通との技術交流を深めており、何かと話題を呼んでいる。

山下 これからの仕事は、業界で1位にならないと儲からない。たとえばLSI、パソコンなどは1年で半値になる。2位で追いかけていてはいつまでたっても追いつかない。これまでの松下電器のように量産技術で安くつくって、販売力で追いつく戦法は通用しないと思わなければならない。だから、業界で1位になるためには何もかも手がけるのではなく、1位になれそうな仕事に的を絞る必要がある。

松下電器の力にも限度があるから、好むと好まざるとにかかわらず他社との提携が不可欠になる。その場合、松下電器だけが、利益を得る関係は長続きしません。

IBMのOEM供給でパソコンのロットがまとまり、松下電器にとって生産技術が修得できる。富士通とは利害が一致するところが多いので、関係が弱まることは考えられない。