国を敵に回し、なぜ告発を 本年最高のノンフィクション
評者/東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望

『スノーデン 独白 消せない記録』エドワード・スノーデン 著/山形浩生 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

[Profile]Edward Snowden 983年米ノースカロライナ州の港湾都市エリザベスシティに生まれる。父母とも公務員。システムエンジニアとしての訓練を積み、CIA職員に。退職後は国家安全保障局(NSA)に勤務、東京で働いたことも。2013年の告発後はロシアに亡命。現在は報道の自由財団理事会議長。

米議会下院によるトランプ大統領弾劾訴追の決定要因となったのが“ホイッスルブロワー”と呼ばれる内部告発者による大統領の違法行為の告発である。民主主義の基本は情報公開に基づく政策決定過程の可視化にある。だが、政府はつねに情報を管理し、隠蔽しようとする。民主主義を機能させるためには、内部告発者の存在は不可欠なのかもしれない。

著者は米国政府に大打撃を与えた内部告発者として糾弾される。なぜ29歳の青年が国家を敵に回し、告発に踏み切ったのだろうかという疑問が湧く。仕事や家族との関係、将来も犠牲になるのに。本書の目的は、「その決断に至る過程、それを支える道徳的・倫理的原則、そしてそれがどうやって生まれたか」を「永遠の記録(パーマネントレコード)」(原題)として残すことにある。

米国社会は9.11連続テロ事件以降、完全に変わった。不法な捜査や押収、抑留を禁じた憲法修正第4条は形骸化し、盗聴や監視が自由に行われる“監視国家”になってしまった。

著者は17歳のとき、連続テロ事件を目撃し、“愛国心”に駆られ高校を中退して陸軍に入隊する。しかしケガですぐに除隊。その後、13歳で政府の原子力研究所のコンピューターをハックした能力を買われてCIAに職を得る。やがて仕事の中で著者は国家安全保障局(NSA)が、市民の同意を得るどころか、何も知らせずに、世界的な大量監視システムを開発配置している事実を知る。同システムで「政府がコンピューターに触れたり、電話をかけたりしたことのあるほぼすべての老若男女を監視できる」のである。