おおさわ・ありまさ 1956年生まれ。79年に作家デビュー。『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞を受賞。94年『無間人形 新宿鮫4』で直木賞受賞。(撮影:今井康一)

警察小説の金字塔といわれるのが、東京・新宿を舞台にした『新宿鮫』である。第1作発売から2020年で30年を迎える。作者の大沢在昌氏が頭に描く、近未来の日本の姿とは。

──『新宿鮫』をこんなに書き続けるとは想像していましたか?

第1作を書いた1990年時点では夢にも思っていなかった。愛憎相半ばする複雑な感情があります。自分の人生をすごくいいほうに変えてくれたけれど、100冊の作品の中でほぼ1割にも満たないこのシリーズが、いつもついて回るいら立ちもある。

最初、『新宿鮫』とのタイトルに編集者は「え?」みたいな感じで。あの頃はみんな、「何ですか、それ。新宿に鮫がいるんですか」って。『新宿鮫』は僕にとって29冊目の本だけど、28冊まで全然売れなくて、これもうまくいくはずがないと思っていました。

それまで僕の新刊は赤川次郎さんの本の台として使われていた。赤川さんの本が全部売れると、やっと僕の1冊目が見える。そういう扱いでした。『新宿鮫』のときもやはり本屋には見当たらない。「また台だよ」と思っていたら、編集者から「どんどん売れています」と。夢じゃないかと疑っている状態が5年。紅白歌合戦で泣きながら歌う演歌歌手がいるけれど、そんな感じで人生が変わりました。

──バブル崩壊の頃ですね。

バブルの余韻は残っていましたよね。新宿という街が、まだまだ剣呑(けん のん)な街で、やくざ者は多いし、キャッチバーもあって、怖い街というイメージでした。でも、田舎から出てきた人間が、最初に目指すとすれば新宿でした。日本人も外国人も、男も女も新宿なら居場所を見つけられる。若い人たちが集まる渋谷とか六本木などと比べて、懐の深さがありました。

つねに未来を書く