政治で揺れる国籍付与
現代日本への含意が豊富
評者/帝京大学教授 渡邊啓貴

『フランス人とは何か 国籍をめぐる包摂と排除のポリティクス』パトリック・ヴェイユ 著/宮島 喬、大嶋 厚、中力えり、村上一基 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

[Profile]Patrick Weil/1956年生まれ。88年にパリ政治学院で政治学の博士号取得。パンテオン・ソルボンヌ大学(パリ第1大学)の20世紀社会史研究センター所属。移民や市民権が専門で、政策立案にも関与。81〜82年移民閣外大臣の官房長、97年には政府から国籍・移民政策改正の検討任務受託。

本書は移民やその市民権に関する研究の第一人者による、フランス国籍に関する浩瀚(こうかん)な歴史書である。内容的に、一般読者には縁遠いと思われるかもしれないが、現代の日本を考えるうえでも大いに啓発される内容が満載だ。

近年日本でも外国人労働者受け入れの議論が喧(かまびす)しいが、本書を読むとそれがいかに目先だけの議論であるかを改めて認識させられる。外国人を国家の政策として受け入れる場合、その先には外国人の定住化と社会統合、さらには帰化=国籍付与をどうするかという問題が立ち現れる。本書は、わが国で将来起きるであろう議論を暗示している。

フランスの国籍法はその時々の政治情勢や権力者の思惑でつねに揺れ続けた。本書の特徴は、単にフランスの国籍法の歴史をたどったことではなく、国籍法の変遷をその背景にある政治と見事に関連付けて説明している点にある。そのため18世紀末から現代にいたるフランス近代政治史をおさらいできるという余禄もある。

フランスの国籍法は一般に出生地主義として知られるが、歴史をひもとくと、フランス革命の最中、ナポレオンの民法典の中に血統主義が表れていた。本書ではしばしばフランスの出生地主義と比較されるドイツの血統主義が、むしろナポレオン民法典を受け継いだものだったという指摘も、独仏の対立関係を考えると逆説的で興味深い。