2016年の英国のEU離脱国民投票と米国のトランプ氏大統領当選を境に、国際貿易を取り巻く環境は大きく変わった。それ以前は関税削減や貿易の円滑化などが活発に進められてきた。しかし、近年は米国のNAFTA(北米自由貿易協定)見直しや米中貿易戦争、英国のEUとの関税同盟からの離脱など貿易制限的な政策が目立っている。

背景には、移民問題と並んで、中国などの低所得国からの輸入増加が製造業雇用を大きく減少させたことによる、労働者らの不満の高まりがある。このような国際貿易による雇用への影響は、特定の地域や業種の従業員に集中する可能性があることが米国の研究でわかっている。より詳しくみていこう。

米国では2000年代に入り、中国からの輸入が拡大。製造業が衰退し、輸入競争と雇用の関係についての研究が再び脚光を浴びている。その代表例が米マサチューセッツ工科大学のデービッド・オーター教授らの一連の研究だ。オーター氏らは、米国の地域別データを用いて、中国からの輸入品増加が当該地域の製造業・非製造業の雇用者数、賃金、社会保障受取額に及ぼす影響を分析している。

分析結果からは、中国との輸入競争にさらされている地域は雇用者数、賃金ともに負の影響を受けていることが示された。そのマクロ的なインパクトは無視できないものであり、1990〜07年の製造雇用の減少幅の21%が中国からの輸入競争圧力によるものであると結論づけられている。

中国との競争にさらされている地域とそうでない地域を比較すると、輸入から直接影響を受けない非製造業労働者についても、高卒雇用者を中心に雇用数に減少傾向が見られた。製造業の縮小によって近隣の非製造業も不振に陥っていることが示唆される。また当該地域では失業率や非労働力率の上昇、社会保障受取額の増加が見られた。職を失った労働者がその地域にとどまり、社会保障費用が増加していることがわかる。