富士通総研エグゼクティブ・フェロー 早川英男(はやかわ・ひでお)1954年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒。米プリンストン大学経済学大学院にて修士号取得。77年日本銀行に入行後、長年にわたって主に経済調査に携わる。調査統計局長、名古屋支店長、理事などを歴任し、2013年4月から現職。著書に『金融政策の「誤解」』。(撮影:梅谷秀司)

今年に入ってからの金融市場の動きでいちばんの驚きは、意外に円高が進んでいないことではないだろうか。昨年末の1ドル=110円からは多少円高だが、購買力平価が90円台後半だとすると、現在もかなりの円安水準といえる。米国が2回も利下げをすれば100円割れもありうると予想していた人は、(筆者自身を含め)少なくなかったと思う。以下は、なぜ円高が進まないのかに関する現時点での筆者の仮説だ。

30年余り前、為替レートの決定理論として、国内では日本銀行のエコノミストだった深尾光洋氏(後に慶応大学教授、現在は武蔵野大学教授)が開発した「深尾モデル」が有名だった。そこでは、為替レートは①購買力平価、②内外金利差、③過去から現在までの累積経常収支、という3つの要因で決まることになっていた。

ここで累積経常収支が説明要因になるのは、経常黒字の結果、邦人が外貨資産を蓄えれば為替リスクが発生し、そのリスクプレミアム分だけ円高要因になるからである。さらに深尾モデルでは、累積経常収支から将来円に転換される予定のない対外直接投資分を差し引くべきだとされていた。