イエバエの幼虫のふんを使った肥料(左手側。濃い茶色)と、幼虫を乾燥させた飼料(右手側。黄土色)を手に。CEOを退いた現在、東京と宮崎を行き来しながら第1号プラントの建設に専念している(撮影:尾形文繁)

ムスカ・ドメスティカ。この言葉を知っている人は、研究者か虫マニアだろう。生ゴミや動物の排泄(はいせつ)物に群がるあのハエ、イエバエの学名である。

このイエバエの学名に由来する社名を持つベンチャー「ムスカ」が、昨年からにわかに存在感を増している。ベンチャーを対象にしたビジネスコンテストで立て続けに上位に入賞。丸紅、伊藤忠商事、新生銀行とそれぞれ提携し、出資を受けた。経済産業省がベンチャーを支援するプログラム「J-Startup」にも選定されている。

ムスカが実現しようとしているのは、イエバエを使った、環境負荷が小さく、コストの安い有機廃棄物のバイオマス処理だ。このイエバエは、ロシアで1950年代から半世紀、1200世代の選別交配を行って特別な能力を備えた、いわばスーパーイエバエだ。

現在、日本では家畜の排泄物や食品残渣(ざんさ)(食品ゴミ)などの有機廃棄物が年間1億トン発生している。その処理法の1つとして有機廃棄物を堆肥にしているが、一般的には有機物が分解され堆肥になるまでに2~3カ月を要する。ところがムスカのイエバエの幼虫は、それを1週間で食べ尽くす。さらに、そのふんが肥料になり、幼虫を乾燥させると飼料になるという。

現在、家畜用の配合飼料の一部に魚粉が使われているが、人口増加と肉食文化の浸透で家畜が増えた結果、魚粉が不足し高騰している。その一部をムスカが飼育するイエバエの幼虫に置き換えられれば、海洋資源の保全にもつながる。