カギは民主主義の改革、分析とともにプランも提示
評者・東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望

『いまこそ経済成長を取り戻せ 崩壊の瀬戸際で経済学に何ができるか』ダンビサ・モヨ 著/若林茂樹 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)
[Profile] Dambisa Moyo/1969年ザンビア生まれ。大学進学後にクーデターが発生し渡米。アメリカン大学でMBA、ハーバード・ケネディ・スクールで行政学修士、英オックスフォード大学で経済学博士を取得。ゴールドマン・サックスでの勤務経験がある。著書に『援助じゃアフリカは発展しない』など。

タイトルは本のメッセージを伝えるうえできわめて重要である。原著の副題は「なぜ民主主義は経済成長を達成するのに失敗したのか、どう修復するのか」。本書は邦題が示唆するような“経済政策”を論じた本ではない。民主主義の機能不全が先進国経済の長期低迷の要因であり、民主主義制度の改革の必要性を説いたものである。

1998年にハーバード大学のロバート・バロー教授は『経済成長の決定要因』において、経済成長と民主主義に正相関性があることを実証的に示した。本書はバロー教授の主張と、逆な意味で重なり合う。

著者は、リーマンショック後の世界経済の低迷は民主主義の衰退にあると主張する。そして「現在は権威主義、国家資本主義、非自由主義的民主主義といった別のモデルが影響力を拡大し、自由民主主義的資本主義の経済モデルに異議」が唱えられていると見る。新自由主義をベースとする経済政策によって政府も企業も短期的利益を追求するあまり、経済成長を阻害するだけではなく、格差の拡大など深刻な様々な社会問題も引き起こしている。その中で高成長を実現した中国型国家資本主義が台頭し、独裁的な途上国に受け入れられつつある現実を指摘する。

ローレンス・サマーズ教授など多くの経済学者が先進国経済の長期低迷の要因を分析している。だが著者は「経済モデル、財政金融政策など、二十一世紀を支配してきた制度では、世界が現在直面する経済的逆風、成長への課題に対処するには十分でなくなった」と主張。そして「西欧諸国は自由民主主義を本格的に改革しない限り、経済成長はできない」と言い切る。

本書の特徴は単に分析に終わるのではなく、具体的に「民主主義制度を改革する十の案」を提示していることだ。例えば第1の案は、政府とその継承者は政策や公約や条約を継続遵守することである。これは、前政権が決めたTPPから一方的に離脱したトランプ大統領や国際条約を無視する韓国の文在寅(ムン ジェ イン)大統領が思い起こされる。その他にも政治資金改革、長期的な視点で政策立案をするための政治家の任期長期化、政治家の質の改善などが提案されている。個々の改革案に対して異論はあるかもしれないが、いずれも一考に値する提案である。

翻ってわが国に目を向けると、20年以上にわたる経済の低迷、そして民主主義が十全に機能していないことでは人後に落ちない。本書の指摘は日本にとっても有益である。