富士通総研エグゼクティブ・フェロー 早川英男(はやかわ・ひでお)1954年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒。米プリンストン大学経済学大学院にて修士号取得。77年日本銀行に入行後、長年にわたって主に経済調査に携わる。調査統計局長、名古屋支店長、理事などを歴任し、2013年4月から現職。著書に『金融政策の「誤解」』。(撮影:梅谷秀司)

7月末の金融政策決定会合で、日本銀行は金融市場調節方針に「物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれるおそれが高まる場合には、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」との一文を加え、目標実現への決意を改めて示した。だが、日銀に早期に目標を達成する手段はないと考える市場の反応は冷ややかだった。実際、日銀の大胆な金融緩和はしだいに独り相撲の様相を強めている。

6年半前に日銀が「異次元金融緩和」をスタートさせた時点で、その最大の支持勢力は安倍晋三政権であった。もちろん、政権中枢にも麻生太郎財務相など2%の物価上昇率目標にあまりこだわらない人もいたが、西野智彦『平成金融史』が克明に描いているように、政府・日銀の共同声明に目標達成時期を明記するよう強く迫ったのは安倍首相その人だったからだ。

ところが、先の通常国会での大塚耕平議員の質問に、安倍首相は「2%の物価安定が一応の目的だが、本当の目的は完全雇用を目指していく、そういう意味で金融政策も含め目標は達成している」と答えた。賃金がなかなか上がらない中で物価だけが上がれば人々の暮らしは苦しくなる。選挙にとってもマイナスだ。だから2%目標を急ぐ必要はないと考えるのは極めて常識的な政治判断といえよう。