企業城下町崩壊の記録、長期雇用に勝るものなし
評者・福井県立大学名誉教授 中沢孝夫

『ジェインズヴィルの悲劇 ゼネラルモーターズ倒産と企業城下町の崩壊』エイミー・ゴールドスタイン 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

[Profile] Amy Goldstein/米ブラウン大学卒業。ワシントン・ポストで記者を30年間務めている。長年にわたりメディケア、メディケイドなど社会政策に関する記事を執筆していて、近年はヘルスケア政策を担当している。2002年にピュリツァー賞(国内報道部門)を受賞、09年も同賞の最終候補者になった。

普通の勤労者が安定した雇用を失ったとき、暮らしと地域社会がどのように過酷な変化を強いられるのかを、克明に伝える本である。

本書の舞台である米ジェインズヴィルは、世界一の自動車メーカーだったGMの工場があり、世界に知られたパーカー万年筆の創業の地でもあるウィスコンシン州の南端の街で、人口は約6万3000人(2010年時点)。

GMはこの街で1919年にトラクターの製造を開始、何度かの不況のたびに閉鎖の危機に見舞われたが、シボレーやSUVへと生産車種を変更して、工場を稼働し続けた。むろん、おじいさんの代から、親の代からという現場の勤労者がたくさんいた。賃金が高く、健康保険や年金もあり、30年、40年と勤めれば、残りの人生も不安はなかった。家を建て、ボートやキャンピングカーなどを持ち、雉(きじ)撃ちや鹿狩りに興じたりもできた。高校を卒業して運よくGMに入社すれば、よい中間層の仲間入りができたのだ。

それが暗転する。業績不振にサブプライムローン問題が追い打ちをかけ、GMは07年度に大赤字を計上。ジェインズヴィルでは08〜09年に、下請けを含め9000人が仕事を失った。それは商店もレストランもお客を失ったということだ。むろん地域社会は必死に新たな仕事の創出と街の再建に取り組んだ。例えば、大学に電気工事や法律を学ぶコースを作るなどして。

しかし、刑務所の刑務官の職などにありつけた人はわずかである。28ドルあった時間給は、配送センターなどに就職した場合、15ドルに下がった。それでもフルタイムの仕事が見つかった人間は運がよかった。また、遠方の工場に配転され、毎週金曜の夜に7〜8時間かけて家に帰り、日曜の夜に家を出る人間もまだよかった。

州兵に応募し戦場に行ったり、食料切符で生活したり、医療の機会から排除されたりした人々の暮らしはやはり辛(つら)くて哀(かな)しい。GMは国有化を経て再生したが、ジェインズヴィルの復活は遠い。

米国では、高卒や短大卒が工場に勤めることによって中間層になれる確率はどんどん下がっている。

米国に限らず、世界のどの国に行っても、普通の人たちは長期雇用を望んでいるし、住み慣れた土地を離れたいとは思っていない。日本の長期雇用をネガティブに評価し、「米国のように、衰退産業から成長産業への雇用の流動化を促進せよ」などと主張している論者は、まず本書を読んでみるとよい。