SNS通じ素人が参入 あらゆる戦いの先読めず
評者・北海道大学大学院教授 橋本 努

『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』P・W・シンガー、エマーソン・T・ブルッキング 著(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

[Profile]P. W. Singer 米ブルッキングス研究所の上級研究員。国防総省、国務省、CIAの顧問も務める。著書に『戦争請負会社』『子ども兵の戦争』『ロボット兵士の戦争』など。

[Profile]Emerson T. Brooking 紛争およびソーシャルメディアのエキスパート。米外交問題評議会リサーチフェロー。『アトランティック』『フォーリン・ポリシー』『ポピュラー・サイエンス』などに寄稿。

トランプ米大統がツイッターを始めたのは10年前。当時63歳だった彼は、4度目の破産を経験していた。だがその2年後にはツイッターの威力を熟知して、「炎上戦争」を仕掛けている。「負け犬!」「弱虫!」といった挑発的な言葉で怒りをぶちまければ、世間の注目を浴びることができる。2016年の米大統領選では、トランプはすでに、共和党内で指名を争うほかの候補者たちが追いつけないほどのフォロワー数を獲得していた。

メディアの地殻変動が起きていたのである。ツイッターで反響があれば、ウェブ以外のメディアでも優位に立てる。ツイッターのおかげでトランプは、50億ドルに相当するメディア報道を無償で獲得することができたともいわれる。

その背後には彼を支えるオンライン軍団の活躍もあった。選挙戦ではツイッターに自動的に投稿する、約40万のボット・アカウントが参入したとされるが、その3分の2がトランプ支持派によるものだった。支持者たちはいわば、「いいね!」活動を展開して言論空間をハッキングすることに成功した、というのが本書の見立てである。

今や大統領選からテロに至るまで、メディアに関する部分は、素人たちの参入によって思いがけない展開を見せている。ツイッターやフェイスブック、ユーチューブなどのSNS(交流サイト)は、あらゆる情報を可視化する世界を生み出してしまった。

米国の元陸軍中将マイケル・フリンによれば、SNSが台頭する前は、有益な情報の90%が秘密の情報源からもたらされた。ところが、現在ではその90%が、誰もがアクセスできる情報源から得られるのだという。

また、マーク・ミリー米陸軍参謀総長は端的に、「人類史上はじめて、気づかれないことがほぼ不可能になっている」と指摘している。実際の戦争においても情報がオープンに共有される時代が到来したのである。

戦いを制するには、大量の虚偽情報をまくことが有効な戦術になる。先の米大統領選関連のニュースでは、虚偽報道のフェイスブックでのアクセス数は、主要な既存報道機関のトップニュースの総アクセス数を上回ったという。

真理はネット上にあるが、虚偽情報で見えなくなっている。本書は軍事研究とSNS研究の第一人者が組んで、豊富な事例を基に実態を解明した好著。音声までリアルに作る最新のフェイク技術に、読者はネット社会の行く末を案ぜずにはいられまい。