しん・じゅんほ 1972年生まれ。2005年に韓国の検索サイト大手1noonを創業メンバーとして立ち上げ。2006年、同社をNHN(現NAVER)が買収。2008年にネイバージャパン(現LINE)出向、来日。取締役CGO(グローバル責任者)などを経て、2019年4月から現職。(撮影:吉濱篤志)
(注)本記事は週刊東洋経済8月3日号「LINEの岐路」掲載インタビュー(94ページ)に大幅加筆した拡大版です。

 

──CWO(Chief WOW Officer)という役職は、どんな役割を担っているのですか。

四半世紀近くインターネット業界にいて思うのは、どんな領域でも、1位になるサービスにはユーザーが初めて体験する感動、つまりWOWがあるということだ。第2の創業という変革期を迎える今、社内でWOWの精神をより優先順位の高いものとして、浸透させる役割を果たしていきたい。

トロイカ体制自体は今後も変わらない。LINEの生まれる前から3人とも、お互いの強みを生かしながらの役割分担だ。出澤剛が一番「社長らしい」タイプで、実際に(ライブドアも含め)社長として組織を率いた経歴も長い。経営全般や組織を見ることに長けている。舛田淳はマーケティングとか、宣伝が得意分野。僕は開発畑の出身なので、プロダクト、イノベーションという部分で貢献できると思っている。

この陣形で10年以上やってきたが、組織の規模がここまで大きくなければ、それに合わせた修正も必要だ。最初は20人くらいの規模で始めた会社だったので、「WOWが大事だ」とこまごまと全部説明しなくてもわかってもらえる面はあった。でも今はグループ7400人以上の会社。この3~4年で一気に倍以上の規模になった。つまり半数以上の社員が社歴4年以下で、初期のLINE社の雰囲気を知らない。そういう中では、もうちょっと(経営陣の役割を)見える化したり、メッセージを明確化する必要があると。

背景には、今のネット業界はGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムの4社)などの大企業を除き、WOWをゼロから生み出せる企業が減ってきたという危機感がある。この点は自動車業界が置かれている状況と似ている。電気自動車や自動運転といったイノベーションに、ついていけているメーカーはわずかだ。ネット企業もゼロベースで考え直していかないと、時代から取り残されてしまう。

中でもAI(人工知能)は最も重要なテクノロジーになる。この先ネット・IT企業は、AIに対応できたところと、対応できなかったところに間違いなく分かれていくだろう。

──「トロイカ体制」での経営ですが、3人の中で慎さんが最大の株主であるうえ、報酬も圧倒的に高いのはなぜですか。

報酬にも基本報酬とストックオプションがあり、自分の場合大きいのは後者。全サービスのWOW責任者として、イノベーションを起こせる環境をきちんと作ってくれ、という役割の重さに対してもらっているものだと認識している。

──AIの開発競争を含め、資本力勝負になってきています。

スマートフォンの黎明期には10〜20人の小さな組織で革新的なプロダクトをつくれたが、市場の成熟化によって、今は10倍のエンジニアがいても足りなくなっている。LINEはグループ7400人のうち約3割をエンジニアが占め、AI関連は親会社との連携を含め1000人いる。これはアジアでもトップクラスの陣容だと認識している。

欧米が後追いしている

──米のテックジャイアントが力を入れる音声アシスタントの領域にも進出しています。

この領域なら勝てる、というより、どこよりも先端を走って消費者のニーズをつかむというのが狙いだ。音声アシスタントでは、他社と同じタイミングでまずスピーカー端末を、次にディスプレー付き端末を出した。この先は蓄積したデータを基に法人向けビジネスも展開していく。これがもし、ある程度市場が膨らんだ後の参入であったなら、到底追いつくことはできないだろう。

イノベーションは来年に起こそう、資本力がついたら起こそう、と簡単にできるわけではない。会社の文化として、いつも目指しているからこそ種を発見できる。GAFAのような巨大企業と戦っていくためには、彼らと目線を合わせるのではダメだ。彼らの「さらに先」を見るしかない。

──勝算はありますか。

アジアの利用者は欧米と比べ、ネットのリテラシーが高い。例えばメッセンジャーアプリでは、日本でLINEのサービス開始当初から活発に利用されていたスタンプ機能が、欧米で広まるのに3年以上かかった。送金などフィンテック系の機能も同じで、今はワッツアップやフェイスブックメッセンジャーなど米国発のサービスが、われわれを後追いする形で機能拡充を行っている。

アジアに住むリテラシーの高いユーザーを抱えるというアドバンテージを生かせば、イノベーションの競争でも渡り合っていけるはずだ。

──一方、アジアはアジアで、中国のテックジャイアントという強力なライバルがいます。フィンテック系の機能開発やサービス拡大でも、日本や韓国に先行しているように見えます。