Richard C. Koo 1954年神戸生まれ。米カリフォルニア大学バークリー校卒業。FRBのドクター・フェローを経て、米ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了。米ニューヨーク連銀を経て、84年野村総合研究所入社。著書に『良い円高 悪い円高』『「陰」と「陽」の経済学』『デフレとバランスシート不況の経済学』など。(撮影:風間仁一郎)
野村総合研究所チーフエコノミストのリチャード・クー氏は、1990年代後半から日本のデフレ不況に対する積極的な財政政策を主張してきた代表的な論客だ。新著『「追われる国」の経済学 ポスト・グローバリズムの処方箋』では、自身の「バランスシート不況」の考え方を発展させ、リーマンショック後の米欧経済の長期停滞や中国経済の行方にも言及している。国内でのテレビ出演は減ったが、逆に経済の「日本化」が進む海外の中央銀行から講演依頼の絶えないクー氏。最近のMMT(現代貨幣理論)の台頭や米中対立をどうみているのか。

──金融政策への依存に対し批判を続けています。背景には、バブル崩壊後の日本を基としたバランスシート不況の考え方があります。

私も最初は中央銀行の役割は非常に大きいと考えていた。だが、90年代の日本を見ていると、金利をゼロにしても何も起きない。大学で学んだ経済学と全然違う。最終的に、資金の借り手がいないのではないかと考えるようになった。

──バランスシート不況論に対しては批判もありました。

何しろ経済学の前提を否定したから。経済学では、実質金利さえ十分に下げれば借り手は絶対に現れるという前提の下に、民間企業が利益を最大化するという考え方が成立している。だが、その前提は満たされていないのではと私は問題提起した。

──当時の日本は、借金で購入した資産の価格が暴落し、バランスシートの修復が重要な課題でした。

それで借金返済を最優先する企業ばかりだったらどうなるか。例えば中央銀行は、量的緩和政策(QE)を行い市中から国債を大規模に買うことなどによって確かに商業銀行まではお金をつぎ込むことができる。だが問題はそこから先。銀行はそのお金を貸さなくてはいけない。ゼロ金利でも借り手がいない状況では、そのお金は設備投資などを通じて実体経済に入ってはいけず、金融システムの中に残り続けることになる。これだけの金融緩和を行っても日本でインフレに火がつかないのはそのためだ。

「もっとやれ」は思考停止

──不良債権処理が終わっても日本の借り手不在は続いています。