行動経済学者が最も苦戦しているのは、よりよい選択肢があるとわかっていながら重い腰を上げて現状を改めることができない「デフォルト・バイアス」の壁だ。例えば、喫煙者はたばこをやめたほうが健康にいいとわかっているが、つい目の前の一服の誘惑に負けてしまう。

デフォルト・バイアスにはたくさんの事例がある。節電に関する米国のフィールド実験を取り上げよう。オバマ前政権は、スマートグリッドへの投資補助プログラムの実施を発表し、10地域の電力会社の節電プログラムを支援した。

採用されたのは、デフォルトは一律型電気料金で、希望者だけ変動型電気料金を選択できる「オプトイン方式」と、デフォルトは変動型電気料金で、希望者だけ一律型電気料金を選択できる「オプトアウト方式」である。変動料金を選ぶには能動的選択が必要なのがオプトイン方式、変動料金を選ぶのに消極的選択で済むのがオプトアウト方式だ。

結果、変動料金への加入率はオプトイン方式で平均20%、オプトアウト方式では平均95%と、どちらも同じ変動型電力料金を選択しているにもかかわらず、両方式の間で驚くべき加入率の差があった。これがデフォルト効果だ。

電気料金のオプトイン方式とオプトアウト方式で注目したいのは、加入率と加入者の節電率の間にトレードオフ関係があることだ。変動料金に興味がある者だけが加入するオプトイン方式では加入率は低いものの、加入者の節電意欲は高い。逆に変動料金に興味がなくても加入するオプトアウト方式では、加入率は高くなるものの加入者の節電意欲は概して低い。加入率と節電率を掛け合わせた社会効果でどちらが優れるかはケース・バイ・ケースだ。