【今週の眼】佐藤主光 一橋大学教授
さとう・もとひろ●1992年一橋大学経済学部卒業、98年加クィーンズ大学博士号(経済学)取得。2009年から現職。専門は財政学。政府税制調査会委員なども務める。著書に『地方税改革の経済学』『地方財政論入門』、共著に『震災復興 地震災害に強い社会・経済の構築』など。(撮影:梅谷秀司)

金融庁の報告書が物議を醸している。年金生活をする無職の高齢者夫婦の場合、平均で毎月5万円ほどの生活収支赤字が生じるという試算から、30年で約2000万円の資産があらかじめ必要になると結論づけている。

公的年金について「その給付水準は今後調整されていく見込み」との一文も加わったことから、「年金不安を助長する」「2004年の年金改革時にうたわれた100年安心はウソだったのか」といった批判が起きた。参院選の争点になりかねない事態だ。

もっとも、報告書の試算は年金制度の将来的な見直しを見込んでいるわけでも、それを提案しているわけでもない。給付が「今後調整されていく」ことは、高齢化に応じてその伸びを抑えるマクロ経済スライドとして現行制度に織り込まれている。毎月5万円の収支赤字は総務省の「家計調査」にある平均的な高齢者世帯の現状を表しているにすぎない。現在の高齢者世帯は平均すれば2000万円程度の貯蓄があるから、この赤字が成り立つ面もある。このように報告書は「将来推計」というより「現状確認」に近い。