
非・超大国との交流が示唆する日本の進路
評者 福井県立大学名誉教授 中沢孝夫
暮らしや経済活動を支える基本的な「公共財」ともいえる「社会秩序」に関して、日本が果たしている地味だが大きな国際的役割を、本書により改めて実感した。
私たちは国際秩序を考えるとき、米国や中国といった超大国の意思や行動から、その変化を予測し、理解しようとする。確かに、超大国の影響力は圧倒的だが、相対的に大国といえる日本の役割も大きく、それなりの影響を世界に与えている。著者はこれまでの日本外交が超大国との2国間関係に偏りすぎたとし、新たな視点を提供する。
190を超える国連加盟国の多くは発展途上国で、地政学的、民族的、宗教的その他の理由から、混乱と紛争が絶えない。また、破綻国家の増大による難民・移民の大量発生や、その受け入れ国である米国や欧州の国内秩序の揺らぎは、グローバル化の一側面である。現在求められているのは戦火や虐殺、略奪などのない、それぞれの国や地域の産業や暮らしを安定させるための秩序の確立だ。
こうした状況で、国際協力機構理事長の著者が伝える、超大国ではない国々と日本の交流は、新聞やテレビあるいはネットではうかがい知ることのできない貴重な情報だ。

例えば教育。明治期、日本は公教育を高等教育のみならず初等教育も含めて始めたが、そのよさを理解したエジプトは日本式小学校の導入を進めている。同じく明治期に近代法の制定で苦労した日本の経験は、ベトナム、カンボジア、コートジボワールなどにおいて国際基準を満たす法制度の整備に役立っている。
あるいは、アフリカでマラリア予防の防蚊剤を練り込んだ蚊帳(かや)を普及させ、年間300万人の生命を救ったり、そのアフリカから若者を招き、大学院での教育支援によって途上国のリーダーを育てたりしている。もちろん、マラウイでの国際空港の建設などインフラも作るが、日本の各種の「協力」は、中国の「援助」のように相手国を借金漬けにしたりはしない。
非西洋から近代化した体験に基づく日本の発展途上国へのアプローチは、歴史的な関わりが比較的浅いアフリカの国も含め、大きな信頼を集めていることが本書によってよくわかる。基本は自分たちの価値基準を押し付けることではなく、現地の実情に合った、先方の受け入れやすい手法を採用することにあるようだ。
世界の中の日本が進む方向を考える上で、貴重な「世界地図」の読み方であると思う。