対局者が知恵を絞り、雌雄を決する将棋。見る者の胸を熱くするこの競技は筆者の趣味であるが、現代においてはもはや人間だけのものではない。2013年から15年にかけて行われた、プロ棋士対コンピューター将棋プログラムによる将棋電王戦五番勝負は、コンピューター側が好成績を収めて幕を閉じた。技術の目覚ましい進歩によってコンピューターが完勝する日が来たら、強さを極める職業としてのプロ棋士はその立場を失うのだろうか。

より広く見渡すと、新技術の導入が雇用を奪う懸念は、これまでも多くの時代や地域で生じてきた。古くには19世紀イングランドの繊維手工業労働者が、産業革命に伴う機械化に反発したラッダイト運動がある。近年では産業用ロボットや機械学習、深層学習ベースのAI(人工知能)の導入が広がっている。それらの発展によって、棋士だけでなくタクシー運転手、工場のライン工などの職は人の手を必要としなくなるのだろうか。そして雇用全体にはどのような影響があるだろうか。

雇用を左右する3つの効果

この古くかつ喫緊の問いについて産業用ロボットを題材に考えてみよう。産業用ロボットは日本において1970年代から、海外では90年代から導入が進んできた。国際標準化機構(ISO)は「自動的に制御され、再プログラム可能な多目的マニピュレーターで、3軸以上でプログラム可能で、定位置に固定することも、移動式に使用することもできるもの」と定義している(ISO 8373)。

これらは人間の作業を代替する、「置き換え効果」を持つ。一見、雇用への悪影響が懸念されるが、このようなロボットの性質は社会全体では雇用を減らすとは限らない。むしろ、雇用を生み出す可能性があるのだ。

例えば日本の重要産業の1つである自動車産業を考えよう。産業用ロボットは自動車産業全体の生産性を上げ、補完的な作業を生み出した。補完的な作業とはロボットが組み立てる部品を造る作業や、より高いスキルを要する自動車のデザインなどの作業を指す。またロボットの性能が向上し生産性が高まれば、人間はより高度な補完的作業への注力が可能だ。これらの効果を「生産性効果」と呼ぶ。