現在、世界中の大学において教育プログラムの改革が急ピッチで進められている。社会の変化や要請に合わせた新しいプログラムの導入は、教育機関としての役割を果たすために必要不可欠な取り組みだ。しかしながら、教育プログラム全体を改善するためには、既存のプログラムの効果検証もまた必要不可欠である。

例えば「学生の留学促進」は、多くの大学で採用されているプログラムである。直近でも千葉大学が2020年度から全入学生に対して、留学を必修化することが発表された。留学は語学力向上や国際的視野の拡大が期待される一方で、学生に時間的・金銭的負担を強いるため、教育プログラム全体の改善につながらない可能性がある。

政策決定や企業活動において、「データに基づく検証」の重要性が高まる中で、教育機関においても収集されたデータを活用した教育・研究プログラムの評価が、Institutional Research(IR)として海外の大学を中心に広がっている。筆者らが参加している研究チームも、広島大学の1年生を対象とした短期留学(START)プログラムの効果について、統計的な検証を行っている。

STARTプログラムは主として、留学の経験を持たない学生を数週間、海外の大学に派遣し、英語で行われる講義に参加するなどの機会を提供するものだ。ただし、効果については見解が分かれてきた。中でも「数週間程度の短期留学では、『留学した気』になるだけで成果は期待できない」という批判は根強い。とくにSTARTプログラムは語学留学ではなく、将来の本格的な留学につなげるための「第一歩」を提供することが目的だ。このため、留学先では語学の授業ではなく、英語による講義を中心に受講する。さらに派遣先には、豪州など英語を母語とする国だけでなく、ベトナムや台湾といった非英語圏も含まれる。これらの国でも英語での講義に参加するが、日常生活では必ずしも英語を使用せず、英語力の向上にはつながらない可能性がより高い。

筆者らはTOEICの点数を活用することで、STARTプログラムと英語力向上との因果効果の推定を試みた。広島大学は、在学中にTOEICを8回まで無料で受験する機会を提供している。