テクノロジーは人間の敵になりうるのか? この問いは、19世紀初頭のラッダイト運動(英国での機械打ち壊し運動)以降、社会科学において、いや人類にとって、最大の関心事の1つであり続けてきた。ここ数年では、“AI(人工知能)”という単語が広まり、「20XX年までに現在ある仕事のY%が奪われる!」などという言説があふれている。むろんそれらの考察ではAI自体の定義もバラバラであるうえ、人間の仕事がそのAIとやらにどれほど取って代わられるかなど、実証的に何か信頼できる数字があるわけではなく、主観的予想の域を出ない。一方、テクノロジーが人間の仕事にどのような影響を与え、実体経済にどのような結果をもたらしたかという点は、経済学の研究蓄積である程度が解明されている。

本稿では、技術的失業と技術革新に伴う労働市場の構造変化を解説し、現代社会への示唆を試みる。

「技術的失業」という用語自体は、約100年前に英国の経済学者ケインズが生み出したものである。「技術革新により人間の仕事が代替され、短期的には失業者が生まれる」という意味である。誤解されがちであるが同時に彼は、「人類は時間が経てば新たな技術に適応するであろうから、失業問題も長期的には解決されるだろう」とも述べている。

人類の歴史は現在に至るまで彼の予想したとおりで、機械に任せられる仕事の範囲が広がるにつれて、人間の能力が本当に必要なところへと労働力は移動してきた。

中間スキル層の消失

米マサチューセッツ工科大学(MIT)のデビッド・オーター教授らは、1980〜2005年における米国の労働市場について、本議論を実証的に検証した。まず米国の労働者を、①医療や介護など対人のサービスが中心の低スキルサービス労働者、②中間スキル層に相当する生産労働者、③課題解決力やクリエーティビティーなど抽象的思考力が求められる高スキルサービス労働者、の3つに分類した。